今回の再構築はそのメディカル体制を、組織としての再現性のある仕組みへと成長させるための第一歩となる。なぜ今なのか。なぜレディースチームとアカデミーから着手するのか。その背景には、クラブの成長と医療現場の現実が交差する“構造的な課題”が横たわっている。
懸案の“構造的問題”に着手
クラブで「成長推進室」の室長を務める清水稔副社長は「これまで築いてきた高水準のメディカル体制を土台に、次の段階へ進める必要性を主に二つの理由から感じていました」と言う。
一つは、診断・治療方針の段階で複数の視点が必要なのではないか、ということ。いわゆるセカンド・オピニオンや整形外科以外の分野からのアプローチなど、選手の早期復帰のために最も良い過程を更に追求したい、ということだ。レッズの医療体制はこれまで、高いスキルを持ったチームドクター個人への高い信頼と並行し、依存度もまた高い状態が続いてきた。しかしクラブの規模が大きくなる中で、そうした運用には物理的な限界が何れ訪れるであろうことが懸念されていた。
もう一つは、チームドクターを始めとしたメディカルスタッフを誰が評価するのか、ということだった。
メディカルスタッフが力を発揮できる「組織」へ
こうした課題に対し、クラブがまず着手したのが役割の再定義だった。2025のシーズンから「ハイパフォーマンスコーディネーター」という役職を新設し、池田誠剛氏を招聘した。
池田氏の役割は、選手が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えるため、メディカルやフィジカルを始めとする関連部署を横断的にマネジメントすることにある。ドクター、フィジカルコーチ、アスレティックトレーナー、トレーナー、メンタルアドバイザー、フィジオセラピスト、栄養アドバイザーなど、各分野の専門家の選定から関わり、それぞれが持つ専門性を最大限に引き出す体制づくりを担う。
池田氏は旧浦和市出身で、現在トップチームの関根貴大がジュニアユースに在籍していたころ、レッズアカデミーのフィジカルコーチを務めていた。その後は韓国代表チームや複数のJクラブで経験を積んできた。現場での知見を持ちながら、個々の領域にとどまることなく、全体最適を導く立場にある。それは、個々の専門性を尊重しつつ、組織としての最適解を導くための役割である。
同時に池田氏は、メディカルスタッフの評価も担う。「このクラブに限らずサッカー界全体で見られる傾向として、クラブ側が専門性の高い領域の成果を十分に把握しきれないままにメディカルスタッフを評価しなければならないという状況が散見される。
そうした役割や思いから、池田氏自身はフィジカルコーチとしての経験に加え、アスレティックトレーナーとしての長年の経験があるものの、選手のリハビリや治療には直接関わらず、一歩引いた立場から現場を観察しながら、今回のメディカル体制の改革を統括している。「さいたま市立病院のスポーツ医学総合センターは3年前に設立された、スポーツに特化した整形外科のセンターなんです。総合病院ですから他の専門医との連携も可能ですし、さらに女性スポーツ外来という、スポーツをしている女性に特化した問題に対応してくれる外来もあるんですよ」(池田氏)
こうした統合的な医療体制は、クラブが目指す組織型のメディカルとも高い親和性を持つ。個々の専門性をつなぎ、選手を多角的に支える体制づくりが、具体的な形になりつつある。
多角的医療が可能になる理由
さいたま市立病院は2020年から改修を行い、その際に空いた建物を利用して2023年にスポーツ医学総合センターを開設。整形外科医として2012年から同院に勤務してきた武田健太郎医師が、センター長を務めている。
「私の出身の慶應義塾大学にもスポーツ医学総合センターというのが、整形外科とは別にありまして、そこの教授の奨めもあってこのセンターができました」(武田センター長)
武田氏によると近年、整形外科で“スポーツ整形”を専門にしているクリニックなども増えてきているが、それが全国的に広がっているとはまだ言えるほどではなく、公立病院のような公的機関でスポーツ医学を専門に診療するケースは多くない。埼玉県内ではさいたま市立病院が初の取り組みだという。
埼玉県内では、スポーツ整形で実績のある病院があり、埼玉県内をはじめ全国からもアスリートが訪れていたが「さいたま市のことはさいたま市でやれた方がいいだろうということです」(武田センター長)
スポーツによるケガと一口に言っても、その部位や症状は多岐にわたる。一人の医師だけでは知識や経験に限界が出てくる。「いろいろな意見を聞くことができる環境があったほうがいいかなとは思います」(武田センター長)
だからこそ、複数分野の専門医が連携し、多角的な視点から診断・治療にあたることができる環境には大きな価値がある。
ケガが学びの機会になる年代
池田氏は、この新たな体制が選手の育成という観点でも大きな意味を持つと考えている。社会人としても人間的にも素晴らしく、素晴らしいプレーを見せてくれる選手を育成するのに、ケガをしたときは非常に良い機会だというのだ。
「常に人の言うことに耳を傾けられる選手はもちろんいるけれど、多くの選手はケガをして試合に出られなくなったりすると、不安やストレスによってそれが難しくなる。そういった状況で、良いメンタルアドバイザーのサポートを受けたり、一緒にトレーニングをするトレーナーの方に教育してもらうのが、僕はすごく大事なことだと捉えているんです。そこで考え方を変えたり、自分の体と真剣に向き合うようになった選手がたくさんいます。ただ治療ができるだけじゃだめなんです」
現在アカデミーでは、各カテゴリーにトレーナーが配置され、さらに全体を統括するパフォーマンストレーナーが置かれている。彼らが選手に帯同しながら、医師や理学療法士と連携し、筋力や回復度合いを踏まえてその後のリハビリや障害予防の方針を組み立てていく。こうした多角的な関わりは、選手の復帰を支えるだけでなく、メディカルスタッフ自身の成長にもつながっていく、というのが池田氏の考えだ。
育成年代の選手は体に違和感を抱えながらも、出場機会を失うことを恐れて指導者に申告しない場合がある。その結果、症状を悪化させてしまう事態も起こり得る。こうした状況に対し、武田センター長は「だんだん顔の見える関係にしたいですね。
クラブからの発表には、自クラブのメディカル体制の改善だけでなく、「スポーツ医療の人材育成の場」を「さいたま市(地域)」へ提供することがうたわれている。レッズのメディカルスタッフを充実させたいというのはもちろんだが、その治療やリハビリの過程で得られる知見がスポーツ医学総合センターに蓄積されることで、地域のスポーツ医療の質の向上、さらには人材の育成にもつながると見ている。公立病院であるさいたま市立病院との連携には、そうした広がりを見据えた狙いも込められている。
トップチームが“移行期”のわけ
そして発表には盛り込まれていないが、男子のトップチームには今回の改革が適用されないのか、という疑問は当然のこととして浮かぶ。清水副社長は「新年度からとか、新シーズン(2026/27シーズン)からと、明確な時期を設けているわけではありません。池田ハイパフォーマンスコーディネーターやメディカルスタッフと連携しながら、レディーストップチーム、各アカデミーの実運用の進捗を確認しつつ、段階的にトップチームへ広げていきたいと考えている」と説明する。
武田センター長は「視野にないわけではありません」と言うが、同時に「うちの病院も、人員的にそこまでの体制は整っていません。興味を持っている医師はいっぱいいると思うので、どれぐらいの仕事量でどれぐらいの人員が必要かなどを勘案しながら、という段階です」とも語る。
また池田氏は「僕は浦和レッズというクラブ全体でいかにしてメディカル体制が機能するかということを考えています。先日も全カテゴリーのフィジカルコーチを集めてトップのフィジカルコーチがレクチャーを行い、それぞれが日頃抱いている不安や要望を出し合って議論する機会を持ちました。トレーナーやフィジオセラピストでも同様に、そうした所属カテゴリーを超えたコミュニケーションの場を設けたいと考えていますし、時には全パフォーマンスコーチが一堂に集まって意見交換を行う場も設けたい。そういった取り組みを行っていけば、クラブ全体で取り組むことの優位性が発揮されるようになるはずです」と語る。多くのカテゴリーを持っているクラブだからこそ生まれる横の連携。それを機能させることが、今回の改革のもう一つの軸でもある。
その池田氏はトップチームのメディカル体制についてこう考えている。「これまで支えていただいたドクターへの信頼は、当然ながら今も全く変わりません。時代が進んでプロスポーツの世界にも様々な環境変化が起きている中で、メディカル体制は果たして旧態依然としていていいのか、ということです。心理学の言葉に“スキーマ”というのがあります。
チーム力の根幹である選手の健康。それを守るメディカル体制の改革が育成年代からトップチームに浸透したとき、浦和レッズというチーム、そしてクラブはどんな姿を見せてくれるだろうか。
文=清尾 淳

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