■決勝は中国の名門同士の一戦に

 4月4日・5日の2日間、山口きらら博記念公園で「JA全農杯 全国小学生選抜サッカー IN 中国」が開催された。中国5県の代表チームが集まり、優勝・準優勝の2チームに全国大会出場権が与えられる。


 大会1日目の予選リーグは西日本を中心に雨風が強まり、“春の嵐”となった。そのため、もともとはアップスペースとして活用する予定だった、隣接する屋内型競技場の「やまぐち富士商ドーム」で開催。天然芝から人工芝のピッチに変わったが、雨や風の影響を受けない環境で試合は行われた。


 翌4月5日は打って変わって晴天に恵まれた。決勝に勝ち上がったのはサンフレッチェ広島ジュニアとオオタFC。広島は準決勝でレイサッカークラブ(岡山)を3-2で、オオタはシーガル広島を4-0で下した。

 全国の切符は、すでに手にしている。それでも、決勝は特別なものだ。優勝すれば広島にとっては3年ぶり5度目、オオタにとっては5年ぶり5度目。「中国王者」の称号をかけて、Jリーグのアカデミーと、街クラブの名門がぶつかった。

 今大会は8人制で、12分×3ピリオド制で行われる。第1・第2ピリオドは異なるメンバーが出場し、第3ピリオドは交代無制限。
どの選手をどのピリオドで使うのか、どんな組み合わせにするのか、第3ピリオドのメンバーをどう選ぶか。チームの総合力が問われる。

■第2ピリオドで生まれた“ニューヒーロー”

 広島のシステムは「3-3-1」。8人制サッカーでは最もベーシックな形で、DF、MF、FWがバランスよく配置される。一人ひとりが持っている個の力を引き出すという狙いが見えた。

 攻撃のキーマンは左ウイングの10番・岩﨑息吹だ。160センチの長身とリーチを活かしたドリブルで、左から中に切れ込む。大柄ながらも、しなやかで、憧れの選手は広島のトップで活躍する19歳の中島洋太郎。岩﨑がボールを持つたびにオオタのベンチからは「カットインくるぞ!」という声が上がった。

 オオタのシステムは「2-1-3-1」。最終ラインのDFは2人で、中盤の真ん中にアンカーの選手を置く。「3」の両サイドは上下動し、守備時には下がって4バックになる。


 チームを牽引するのは10番・キャプテン・トップ下の堀田心視。140センチと6年生としては小柄ながら、細かいボールタッチと緩急をつけたドリブルで、決定的なプレーを繰り出す。CFの大本泰馳との縦のラインは生命線だ。

 どちらもチャンスがあった中、先制に成功したのは広島だった。9分、それまで左サイドで張っていた岩﨑が、斜め前に走り込んでペナルティーエリア右前でスルーパスを受ける。GKが前に出てコースを狭めようとした瞬間、ワンタッチでシュートを流し込んだ。「左から中に入っていく形で、あそこは狙っていました」。

 この大会で試合の流れが大きく変わるのが、第2ピリオドだ。全員が交代するルールのため、第1ピリオドとはまた別のゲームになる。広島も、オオタも、第2ピリオドに出場する選手も含めて、チーム全体の総合力があるからこそ、決勝まで勝ち上がってこれたともいえる。

 ここで広島に“ニューヒーロー”が生まれた。3分、コーナーキックのこぼれ球を合わせたのは、今大会、16人の登録メンバーから3試合連続で外れていた百武宗一郎だった。
その4分後、百武は高い位置でボールを奪うと、ドリブルで持ち運んでGKをかわしてシュート。カバーに入った相手DFに阻まれるも、山岡成行が詰めて3点目を挙げた。

 2ゴールをもたらした5年生ストライカーの活躍に、関原凌河監督も目を細めた。

「チャンスがなかなかなくて、決勝の場に出て、活躍してくれた。しっかり悔しさをバネにして一生懸命やってくれたと思います」

 0-3となったが、オオタは諦めない。第2ピリオドの9分、ゴール正面やや右の位置でフリーキックを獲得する。小川篤人が左足を振り抜く。鋭くカーブがかかった弾道は、壁の上を越えると、ゴール右ポストに跳ね返りながら決まった。スーパーゴールを決めた5年生レフティはベンチと応援席を力強く鼓舞する。

 第2ピリオドから第3ピリオドまでの3分間のインターバル。点をとりにいかなければいけないオオタのベンチが勝負に出た。フリーキックを決めた小川を残して、アンカーに。
FW藤田遥仁も入れて、1トップから2トップへ。10番の堀田はトップ下から左サイドに移り、ドリブルを仕掛けていく。

 最高気温23.3度となった山口県。第3ピリオドになると、疲れも見えてきた。ただ、広島はボールを失った後の戻りが速い。中盤で石橋颯太が何度も回収に入る。ボールを奪って、すぐに展開する。

 残り時間がわずかとなった時、ベンチから関原監督の声が飛ぶ。「ここを頑張るぞ!」。その直後だった。岩﨑が中央でボールを受ける。ワンタッチで前を向き、スルーパスを差し込む。
山下碧央がタイミングを合わせて抜け出す。GKとの1対1でワンタッチで流し込んだ。

 4-1。「中国王者」の称号を手にしたのは、サンフレッチェ広島ジュニアだった。“育成の広島”と呼ばれてきたクラブらしく、個性のある選手たちが並んだ。それでも、試合後の関原監督は「やりたいサッカーは、まだまだ程遠い」と話した。今大会で得た自信と課題を糧にして、初の日本一を目指す。

 一方のオオタFCは、5年ぶりの全国大会出場。2022年大会では中国勢として初の全国優勝を成し遂げている。クラブを率いる大田善信代表と、大田修平監督の“親子”体制は変わらない。「今年のチームは噛み合えば面白い」と太田監督。全国の舞台で再び「オオタ」の名前を轟かせられるのか。


■試合後コメント

▼関原凌河監督(サンフレッチェ広島ジュニア)
やりたいサッカーは、正直まだまだ程遠いです。きょうは優勝しましたけど、そこは勘違いしないでほしいなと思っています。今は守備の部分に取り組んでいる中で、選手たちはそこをしっかりやってくれた。ただ、やっぱり勝ちたいというよりも負けたくない気持ちが強く出てしまって、長いボールが増えてしまったり、自分たちのやりたいことを出しきれなかった部分もありました。

本当はもっとチャレンジしていいし、ミスしてもいいから自分たちでボールを動かしていくことをやってほしい。そこはこれからの課題です。全国大会では、当然相手のレベルも上がる。その中で、リスクを取ってでも自分たちのサッカーを出せるかどうか。そこを選手たちと一緒にトライしていきたいと思っています。

▼岩﨑息吹(サンフレッチェ広島ジュニア)
先制点は、左から中に入っていく形で、あそこは狙っていました。スペースに流れていって、ファーに流し込むイメージはあったので、うまく決められてよかったです。

自分はサンフレッチェ広島ジュニア出身の中島洋太朗選手に憧れていて、ああいうふうにボールを持った時に違いを出せる選手になりたいと思っています。体の使い方とか、ボールの持ち方とか、真似できるところは意識してやっています。

でも、きょうのプレーはまだ全然満足していません。もっとゴールに関われたと思うし、もっと怖い存在になれたと思う。全国大会では、相手も強いと思うので、その中でも自分のプレーを出して、チームを勝たせられる選手になりたいです。

▼石橋颯太(サンフレッチェ広島ジュニア)
みんなで協力して優勝できた大会だったと思います。準決勝で先制された後にヘディングでゴールを決められたのはうれしかったです。

自分はボランチで真ん中のポジションなので、周りを見て声をかけることとか、どこにボールを出すかを考えながらプレーしていました。ただ、自分としてはまだまだで、もっとボールを奪えるし、もっといい展開もできたと思っています。

全国大会では、もっと守備でも攻撃でもレベルが上がると思うので、その中でも自分がチームのバランスを取れるように頑張りたいです。


▼太田修平監督(オオタFC)
決勝は、やっぱり相手の方が上でした。そこは素直に認めないといけないと思います。

ただ、この2日間で選手たちはすごく成長したなと感じています。昨日の1試合目は少しバタついて、自分たちのプレーがなかなか出せなかったんですけど、試合を重ねるごとに落ち着いてきて、普段やっていることをピッチで表現できるようになっていった。

課題としてはやっぱり守備のところ。自分たちのミスから失点してしまった部分もあるので、そこは全国大会までにしっかり改善しないといけないです。

岡山大会でも2位、中国大会でも2位でした。逆に言えば、課題を持って、次のステージに行けるというのは、うちにとっては成長できるきっかけになると思います。

▼堀田心視(オオタFC)
決勝までは無失点で来られていたので、自分たちの守備は通用している部分もあったと思います。でも、最後に負けてしまってすごく悔しいです。

自分は鳥取から通っていて、片道2時間半くらいかかるんですけど、それでも強いチームでやりたいと思ってここに来ています。

体は小さいですけど、その分、相手の前に入ったり、ボールを失わないようにしたり、技術で勝負することを意識しています。憧れの選手はロナウジーニョです。

全国大会では、もっとレベルの高い相手になると思うので、その中でも自分たちのサッカーをやり切って、勝てるようにしたいです。

▼大本泰馳(オオタFC)
準優勝で全国に行けるのはうれしいですけど、やっぱり優勝したかったので悔しい気持ちの方が大きいです。

自分はもともとアンカーをやっていたんですけど、大会の2週間前くらいからフォワードをやるようになりました。最初は難しかったですけど、前でボールを収めたり、味方に落としたりするプレーは少しずつできるようになってきたと思います。

DAZNとかでサッカーを見ていて、参考にしているのはエムバペやハーランド。どういう動き方をしたら、相手から距離を離れてパスを受けられるかなとか、どういう持ち方をしたら取られないとかを見ています。

ただ、フォワードなので点を取らないといけない。そこはまだ全然足りないです。全国大会までにもっとゴールを取れるように練習して、チームの勝利に貢献できるようにしたいです。

取材・文=北健一郎
編集部おすすめ