『ザ・ノンフィクション』で“高齢ホスト”として話題になった伯爵は、49歳になった現在も現役ホストとして歌舞伎町に立ち続けている。
若手ホストがTikTokやInstagramを駆使し、SNSのフォロワー数を武器に売上を競う時代。ホスト業界はここ数年で大きく様変わりした。伯爵もまた、変化に抗うのではなく飛び込むことを選んだ。TikTok、Instagram、ライブ配信。そして最近では子供の頃から好きだった音楽にも力を入れている。
「49歳でTikTokなんて、昔の自分なら絶対やってなかったですよ」
そう言って伯爵は笑う。
2017年に初めて『ザ・ノンフィクション』へ出演してから約10年。番組の中で映し出されたのは、成功者ではなく、むしろ格好悪さや弱さ、人間臭さだった。だが、それこそが視聴者の心に残った理由なのかもしれない。
『ザ・ノンフィクション』から約10年…今も届く応援メッセージ
「放送当時に比べたら反響は減りました。でも今でもSNSのDMで『応援してます』って言われることはありますね」伯爵はそう振り返る。『ザ・ノンフィクション』は人間の弱さや葛藤を真正面から映し出す番組だ。
「格好悪い部分も全部映るじゃないですか。だからこそ覚えてもらえてるんだと思います」
実際、思いもよらない形で番組の反響を知ったこともある。中学や高校の道徳の授業で、伯爵が出演した回が教材として使われていたというのだ。
「僕も知らなかったんですよ(笑)。『諦めなきゃ大丈夫』みたいなテーマで使われていたらしくて。学校で!?って思いました」
最初の出演から約10年。当時中学生だった視聴者が社会人になり、「あの番組を見て頑張ろうと思いました」と声をかけてくれることもあるそうだ。
一方で、知名度が売上に直結するわけではない。
「若い子には勝てないですよ(笑)。ノンフィクションには3回も出てるんですけどね」
そう言って笑う。
なぜ今でもホストを続けているのか
しかし、番組の反響が今も歌舞伎町に立ち続ける理由のひとつになっていることは間違いない。「こんな歳まで続けるとは思わなかった」
49歳になった今もホストを続ける理由を尋ねると、伯爵は少し考え込んだ。
「正直、自分でも不思議ですよ(笑)」
学生時代の伯爵はホストが嫌いだった。
「世界で一番嫌いな生き物がホストだったんです」
だが人生はわからない。気づけば人生の半分近くを歌舞伎町で過ごしていた。
「まだ必要としてくれる人がいるんですよね。それに『もう無理だろ』って言われる世界で、どこまでやれるのか試したい気持ちもある」
若いホストとのナンバー争いではない。勝負している相手は自分自身だと頬を緩ませる。
「ライバルは自分ですね(笑)」
冗談のように聞こえるが、彼の言葉には強い意志がにじむ。
“若さの街”で49歳ホストはどう戦うのか
歌舞伎町は若さが価値になる街だ。当然、49歳という年齢を意識する瞬間は少なくない。「毎日ありますよ(笑)」
伯爵は即答した。
「送り指名も飲み直しも若い子に持っていかれますからね。心折れそうになって、一人で泣いてる時もありますよ。本当に」
49歳のホストが、一人で泣く。物悲しい姿はテレビの中の伯爵とどこか重なる。
「俺はこんな歳で何してるんだろうって思いますよ。自問自答しながらです」
とはいえ、そのまま終わらないのが伯爵らしい。
「だったら49歳を武器にした方が面白いじゃないですか」
若さで勝てないなら経験で勝負する。それが今のスタンスだ。
「若い頃は自分を見てほしかった。でも今は相手を見る余裕がある」
最近は「癒やされる」「話すと落ち着く」と言われることが増えた。
「若い頃だったらイラッとしてたことも、今は全然イラッとしないんですよ」
ホストとしての武器は変わった。だが、武器そのものがなくなったわけではない。
TikTok時代の歌舞伎町に立ち向かう
伯爵が売れていた時代と今の歌舞伎町は大きく違う。「昔は外で声をかけたり、生の距離感で気に入ってもらう感じでした」
しかし今は違う。
「会う前から勝負が始まってるんですよ」
TikTokやInstagramを通じて、客は来店前からホストを知っている。地方の女性がTikTok一本で歌舞伎町へ来て、数万円、時には数十万円を使う。
「本当にすごい時代ですよ」
一方で、伯爵はSNS万能論には懐疑的だ。
「SNSで人気になる力と、人を幸せにする力は別だと思うんです」
どれだけフォロワーがいても、実際に会った時に「また会いたい」と思われなければ意味がない。
「最後は人間力ですよね」
だからこそ、自身もSNSに挑戦している。
「最初は抵抗しかなかったです(笑)」
49歳でTikTok。昔の自分なら絶対にやらなかったという。
「でも生き残るには変化しなきゃいけない。持つべきプライドと捨てるべきプライドがあると思うんです」
年齢を言い訳にした瞬間に終わる。そう考えている。
昔と今では「売れ方」が違う
そこでこんな質問を投げかけた。「もし今20代だったら、現在の歌舞伎町でも売れていたと思いますか?」
伯爵は笑った。
「負ける気はしないですね!」
即答だった。
だが、その後に続いた言葉が印象的だった。
「ただ、昔より難しいと思います」
接客だけでは足りない。SNSもセルフプロデュースも必要な時代だ。
「昔は姫にスターにしてもらってました。口コミが一番の宣伝だったんです」
アナログからデジタルへ。歌舞伎町もまた、大きく変わった。
『サンサーラ』にこだわり、歌う理由
「版権まで買っちゃいました(笑)」
なぜそこまでこだわるのか。
「自分の人生と重なる部分があるんですよ」
実は伯爵にとって音楽は原点でもある。中学生の頃から曲を作り、高校では軽音楽部に所属した。歌手になり、紅白歌合戦に出ることが夢だった。
「好きな女の子に曲作って渡したりしてました(笑)」
ホストになる前から、ずっと人前で表現することに憧れていた。
「ホストも音楽も本質は同じなんです」
人の心を動かしたい。
人の背中を押したい。
その思いは昔から変わらない。
「音楽なら歌で感動してもらう。ホストなら会話やお酒で楽しんでもらう」
形が違うだけだという。
50歳目前、それでも歌舞伎町に立ち続ける
伯爵は少し表情を変えた。
「正直、頭の中では毎日、天使と悪魔が戦ってます」
悪魔はこう囁く。
「もう引退した方が楽だろ」
一方で天使は言う。
「まだ終わるな」
その声は今も毎日聞こえる。
そして最近、大きな出来事があった。
約20年一緒に働いてきた後輩が亡くなったのだ。30代後半だった。突然の別れだった。
「本当にいい後輩だったんです」
『ザ・ノンフィクション』にも登場したその後輩は、売上よりも人望で愛された人物だった。
「ノンフィクションに出る前、本当にダメだった俺にダメ出ししてくれたんですよ」
13歳年下だった。だが誰よりも信頼していた。社員旅行で沖縄へ行った時、一緒にツーリングした思い出が今も残っている。
「俺は若い頃、嫌われるキャラだった。でもあいつは誰からも好かれるタイプだった」
最後の別れには大勢の人が集まった。それが彼の人生を物語っていた。
「この子の分まで生きたいんです」
伯爵は静かにそう言った。
歌舞伎町について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「歌舞伎町は世界で一番嫌いな街です(笑)」
そして少し間を置いて続ける。
「でも、一番感謝してる街でもあります」
夢も見た。
挫折も味わった。
楽しみも悲しみもあった。
人生が変わった場所だった。
だから、もう少しだけこの街で足掻いてみたいのだ。人生の半分をホストに捧げてきた。50歳はゴールではない。次の挑戦のスタートだ。“高齢ホスト”。そう呼ばれることもある。だが伯爵は、終わった人ではなかった。
時代が変われば、自分も変わる。
若さではなく経験で戦う。
TikTokにも挑戦する。
歌も歌う。
49歳になった今も、歌舞伎町のネオンの下で生き残ろうとしている。その姿は、かつて『ザ・ノンフィクション』で映し出された男の“その後”ではなく、今なお続いている物語そのものだった。
<取材・文/櫻麗(おうれい)>
【櫻麗(おうれい)】
新潟県出身。フリー記者。池袋のスナックでチーママとして働きながら脚本家を志すも挫折。業界新聞の記者、自治体の広報誌などの制作ディレクターを経て独立。現在は歌舞伎町ホストのSNS運用ほか、アングラ、夜職、歌舞伎町カルチャーを主な取材領域に記者として活動中。表には出にくい人間模様を追い続けている。猫と過ごす時間が至福 X:ohreindb
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