たくさんの人に囲まれていても、ふとした瞬間に感じる「自分だけ浮いている」感覚。学校で、職場で、SNSで――年齢や環境を問わず、この感覚を知らない人はいないのではないでしょうか。

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内閣府の令和7年「人々のつながりに関する基礎調査」によれば、孤独感を「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」を合わせると、日本人のおよそ4割弱。特に働き盛りの30~50代で「しばしばある・常にある」が高い水準にとどまっており、孤独は若者だけの問題ではなく、大人にとっても身近な感覚となっています。

今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実話インタビューから、医師や法曹を輩出した家系に育ちながら、幼い頃から居場所のなさを抱え続けてきた女性が、音楽に救いを見出すまでの道のりです。

記事の後半では、「人と違う」を生きる苦しさと、その痛みが誰かの居場所になっていく不思議について、少しだけ考えてみたいと思います。

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2年間毎日「昼食はゆで卵1個と千切りキャベツ」…安定した道を捨て、夢を選んだ28歳女性の挑戦/孤独感がある日本人は4割、人々のつながりに関する調査結果も
一ノ瀬リカさん

父からのプレッシャーはなかった

 力強くも儚い余韻を残す歌声の印象的な女性がいる。シンガーソングライターとして活動する、一ノ瀬リカさん(@rika_ichinose9)、28歳だ。2025年9月に初めてのCD『27Club』をリリースした。医師や法曹を輩出した家系に生まれた彼女が、音楽に人生の救いを求めた経緯を話してもらった。

――一ノ瀬さんの家系はハイソサエティとのことですが。

一ノ瀬リカ:自分で意識したことはないのですが、父が歯科医師、祖父母が2人とも医師、さらに上の代には法曹や大学教授がいるようです。面白いのは、祖父は医師をしながら画家もやっていましたし、父も歯学部時代はかなりバンドにのめり込んだようです。実学をやりながらも、芸術も好きだったのでしょうね。

――先代までと同様に、「医療に携わってほしい」というプレッシャーはありましたか。


一ノ瀬リカ:かなり早々に、父は「継がなくていいから」と言っていました。たぶん、父自身が音楽をやりたかった経験から、思うところがあったのかもしれません。ちなみに兄もクリニックを継いでおらず、好きな仕事をしています。

――自由で素晴らしい教育方針が、一ノ瀬さんの性格にも影響していそうですね。

一ノ瀬リカ:私が幼いころから歌が好きなのを知っていたからかもしれません。幼稚園からずっと私立の学校に通っていたのですが、小学校の教育も非常にユニークでした。教室というものがなく、フリースペースがあるだけで、どの席に座って学んでもいいし、何を勉強してもある程度は自由な学校でした。

原宿駅のトイレで着替えていた

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一ノ瀬リカ
――ゴスロリファッションが印象的ですが、いつ頃から目覚めたのでしょうか。

一ノ瀬リカ:中学2年生だと思います。当時流行していた『ケラ!』という雑誌に出会って、そこで紹介されている音楽やファッションが刺さりました。地元は静岡県なのですが、片道2時間かけて、原宿駅まで行き、駅のトイレでゴスロリファッションに着替える……という学生時代でした(笑)。幼い私に『mezzo piano』とかを着せてきた母としては、頭を抱えたようですが、それでも禁止はせず、「家の周囲をその格好でうろつかなければ何でもいい」と呆れていました。

――勉強もおできになったとか。


一ノ瀬リカ:ありがたいことに人並み以上にはできたようです。小学校のときは、「同級生と習熟度が違うから」と言われて別教室で授業をされていました。同じ学校法人の中学校・高校に進学するのですが、東大を目指すコースに入れられました。ただ私は相変わらず音楽やファッションに没頭していて、本当は受けるはずだった早稲田大学の受験日と大好きなバンドのライブが重なってしまって、ライブを選ぶほど不真面目な受験生でした。早稲田大学を受験しても、受かっていたか際どいなとは思いますが。結局、青山学院大学に進学しました。

人知れず、入浴中に涙を流すことも…

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一ノ瀬リカ
――順風満帆な人生である様子が伝わってきます。

一ノ瀬リカ:ところがそうでもなくて……。昔から自分がどこへ行っても浮いてしまうのは自覚しているんです。なぜか先生から気に入られて同級生の反感を買ったり、無駄に正義感が強くて「それはおかしいと思う」みたいな発言をしていらっとされたり、みんながアイドルの話をしていても自分は大槻ケンヂのことを考えていたり。周囲と自分の波長が合っていないことはずっと悩みでした。

 両親に心配させたくないので、あたかも自分にはたくさん友だちがいるかのように振る舞っていましたが、お風呂のときにずっとひとりで泣いていたりしましたね。それに、友だちと一緒にいたとしても、精神的に食らってしまうことも正直多くて。


――といいますと?

一ノ瀬リカ:人といたほうが疲れるんですよね。「この人はいま、こう感じたんじゃないか」と余計なことを察知してしまうクセもそうですし、それ以外にも、「私みたいな人間が二酸化炭素を吐き続けて生きていることに意味はあるのか」とかずっとぐるぐる考えてしまって。思考が止められないんです。学生時代は、つらいことでも、笑って話すしかすべを知りませんでした。

新卒で入社した企業を退社した理由は…

――つらい気持ちになったり、希死念慮を感じることもあったのでしょうか。

一ノ瀬リカ:幼いころからうっすら希死念慮はありましたね。どこにいても、「自分の居場所ではない」という違和感が強かったと思います。大学生になってバンドのライブに行ったときに、初めて「私はここにいていいんだ」と思える温かい空間に出会いました。それが、いま私が音楽を続けている理由だと思います。

――大卒後、すぐに音楽活動を開始するのでしょうか。

一ノ瀬リカ:いえ、新卒で大手アパレル企業に入社しました。2年間働いたのですが、その間にコロナ禍を経験し、ひとりで鬱々と考える日々が続きました。「何のために生きているんだろう?」という疑問が湧いて、やがて希死念慮に変わりました。
そのとき、ずっと趣味で続けてきた音楽をやってみようかなと思ったんです。これまで常識的な生き方に自分を合わせて生きてきたけど、死んでしまうよりは出来損ないの人生であっても生きていたほうが、家族も悲しまないでしょうし。そのあと、同じビルで働いていた女性社員が休憩所で愚痴を延々とこぼし続けるのをみて、「ここにいちゃいけない」と思って辞表を書きました。

2年間毎日「昼食はゆで卵1個と千切りキャベツ」

2年間毎日「昼食はゆで卵1個と千切りキャベツ」…安定した道を捨て、夢を選んだ28歳女性の挑戦/孤独感がある日本人は4割、人々のつながりに関する調査結果も
一ノ瀬リカ
――かなり勇気が要る行動ですね。金銭的に厳しくなかったですか。

一ノ瀬リカ:いざとなったら路上に出て靴磨きでもしてお金を稼げばいいと思って退職しました。2年間蓄えた貯金など微々たるもので、当然、親からの仕送りもありません。いずれ顔を出して音楽活動をするのでコンセプトカフェでアルバイトはやっていましたが、生活は苦しかったですね。会社員を辞めて最初の2年間、誇張でもなんでもなく、お昼ごはんは毎日ゆで卵1個と千切りキャベツでした。ちょっと頑張ったご褒美で、トマトです。

 夜ご飯も業務用スーパーで大量に安く買ってきて、ちょっとずつ食べていました。ある夜、業務用スーパーから大量の冷凍ブロッコリーを担いで帰路につく途中、繁華街で楽しそうにカップルが酔っ払っているのをみたとき、「私は何をやっているんだろう」と涙が出ました。今も、昼はWEBライターをやりながらギリギリのところで音楽生活をしているのは変わらないかもしれませんが。


歌わないと生きていけない人間

――生まれ育ったご家庭が裕福なのに、金銭的に苦しい音楽活動を続けてこられるのはどうしてでしょうか。

一ノ瀬リカ:大学時代、居場所がなかった私を音楽が救ってくれたように、誰かにとっての居場所になれる音楽を作りたいと思っています。楽曲のテーマも「愛」「恋」という普遍的なものを扱うというよりは、聞いた人が「明日も生きてみようかな」と感じられるものになっています。かつてお風呂場でひとりで泣いていた自分に宛てて曲を描くことが多く、「生きてていいのかな」と思っている人をそっと肯定するものができればと思っています。

 つまるところ私は、歌わないと生きていけない人間なんだと思います。生きていくなかで経験するつらいことや裏切りなど、蓄積したさまざまな負の感情を昇華させる手段として音楽があるんです。同じ気持ちを持っている人に届いてくれることを願っています。

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「人と違う」を生きるのは辛い。血統や家柄のきらびやかさだけに着眼すれば、一ノ瀬さんの抱えた悩みなど即座に矮小化されよう。だが誰しもわかりにくい絶望に冒されながら日々を生きる。自分の地獄に気づける人だけが、他人を地獄から救うことができる。彼女の叫びにも似た歌声がいつか誰かの居場所になる。

<取材・文/黒島暁生>

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■「頼れる人がいない」が12人に1人

一ノ瀬さんが「私はここにいていいんだ」と初めて思えたのは、大学生になってバンドのライブに足を運んだときだったといいます。それまでのお風呂場でひとり泣いていた時間の長さを思うと、その一夜がどれほど眩しかったか、想像するとこちらまで少し胸が熱くなります。


内閣府の令和7年「人々のつながりに関する基礎調査」には、もうひとつ気になる数字があります。「困った時に頼れる人がいない」と答えた人の割合が8.0%。ざっくり12人に1人です。教室でも、職場の会議室でも、電車の一車両のなかにも、たぶん静かに含まれている数字なのだろうと思います。

■歌になれば、居場所になる

面白いのは、一ノ瀬さんが「かつてお風呂場でひとりで泣いていた自分に宛てて曲を描く」と話していたこと。過去の自分に手紙を書くように歌をつくると、それが不思議と、いま同じように泣いている誰かに届く。頼れる人が一人もいなかった夜に、たまたま流れてきた曲だけがそばにいてくれた――そんな経験は、音楽好きなら誰でも一度はある気がします。

2年間毎日「昼食はゆで卵1個と千切りキャベツ」…安定した道を捨て、夢を選んだ28歳女性の挑戦/孤独感がある日本人は4割、人々のつながりに関する調査結果も
※画像は生成AIによるイメージです
孤独は消えないし、たぶん消さなくてもいい。ただ、同じ孤独を抱えた誰かの声が遠くから届くだけで、夜が少しだけ短くなる。一ノ瀬さんの歌が、これから何度もそういう夜をつくっていくのだろうと思うと、CDタイトルの『27Club』の重さと軽さが、少しだけ違って聞こえてきます。

<再構成/日刊SPA!編集部>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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