ドジャースの大谷翔平は日本時間21日のフィリーズ戦に「1番・指名打者」で出場し、1敬遠を含む4打数無安打に終わった。これでオールスター後は17打数3安打、打率.176。
長打も二塁打1本にとどまり、まだ本来の打撃を取り戻せていない。
 加えて、大谷は左膝の痛みを抱えており、当面は投手としての登板を見合わせることになった。次回登板は白紙で、いつマウンドへ戻れるかは見えていない。

 今季中にもう投げないと決まったわけではない。ただ、今後しばらく投球回を積み上げられない可能性が高まり、サイ・ヤング賞争いからは大きく後退したとみていいだろう。

大谷の登板見合わせがMVP争いにも影響?

 そして、投手としての空白期間は、ナ・リーグMVP争いにも影響を与える可能性がある。

 大谷が依然としてMVPの最有力候補の一人であることに変わりはない。今季は開幕から投打で活躍し、特に6月上旬まで防御率0点台を維持していた投球は圧巻だった。

 一方で、MVP争いは「大谷で決まり」と言い切れるほど一方的な状況なのか。現地の反応を見る限り、必ずしもそうではない。

 米野球メディア「Talkin’ Baseball」はXで、「大谷が投手として登板を見合わせる中、それでも今季のナ・リーグMVPを獲得すると思うか」とアンケートを実施した。「Yes」は64%。大谷支持が多数を占めた一方、4割近くは別の結末を想像していることになる。


攻守走で価値を積み上げるPCAもMVP候補に

 その大きな理由の一つが、カブスのピート・クロウ=アームストロング(以下PCA)の存在だ。

 日本時間20日時点のFanGraphsによるfWARでは、両リーグトップの大谷が6.1、同2位のPCAが5.9。その差は、わずか0.2しかなかった。

 WARは、控えレベルの代替選手と比べ、その選手がチームの勝利をどれだけ増やしたかを総合的に示す指標である。万能ではないものの、近年はMVP候補の貢献度を比較する際、有力な判断材料の一つとして頻繁に用いられている。

 大谷の6.1は、打者3.1と投手3.0の合算だった。対するPCAは、野手としてだけで5.9を積み上げている。

 大谷の登板見合わせが続けば、争いの構図は「二刀流の大谷対PCA」から、「指名打者として打つ大谷」と「攻守走で価値を積み上げるPCA」の競争へ変わっていく可能性がある。

 PCAは6月に打棒を爆発させ、一気にWARを積み上げた。7月以降は打撃の状態をやや落としているものの、走塁と中堅守備で高い評価を受け、特に守備指標ではMLB全体の上位に入っている。

大谷が投げないなら…PCAに受賞の可能性も

 一方、大谷は打てなければ、その日の上積みが限られる。バットが湿っても、守備や走塁でチームの勝利に貢献できるPCAとは立場が異なる。

 現地ファンからは「今後投げなくても、これまで投手として残した成績が無効になるわけではない」と、大谷を支持する声もあった。前半戦に投打で積み上げた価値が評価されるのは当然だろう。


 ただし、「大谷が完全にDHのマイナス補正を背負うなら、PCAがトップに立つ」「大谷が投げないなら、PCAにも受賞を主張できる道がある」との見方が出ているのも事実だ。

 大谷の知名度や、二刀流が球界に与えてきた衝撃は圧倒的である。だが、WARが僅差である以上、PCAの追撃を人気や物語だけで片付けるべきではない。

今後の焦点となるのは「投手・大谷」の復帰時期か

 今後の焦点は、大谷の登板見合わせがどこまで長引くかだ。早期に復帰できれば、再び投打の両面から価値を積み上げられる。

 一方、復帰が9月以降へずれ込む、あるいはポストシーズンを優先してレギュラーシーズンの登板を控えるようなら、打者としてPCAを上回るだけの成績が求められる。

 2024年、大谷は指名打者一本でMVPに輝いた。ただし、あの年には史上初の「50本塁打、50盗塁」という、投票の議論をほぼ終わらせるほどの実績があった。

 今後、もし指名打者としての出場が主となるなら、後半戦は相応の打棒が求められる。登板へ向けた調整や疲労が減ることが、打撃にプラスに働く可能性はあるものの、左膝の状態がスイングへ影響しないことが前提となるだろう。

打撃で“突き抜けられるか”がMVP連覇へのポイントに

 サイ・ヤング賞争いから大きく後退する要因となった登板見合わせが、打者・大谷の再加速につながり、結果としてMVPを近づける。そんな展開も考えられるが、オールスター後の数字を見る限り、現時点で楽観できる状況ではない。

 もっとも、大谷本人が優先するのは、PCAとの差や個人タイトルではなく、チームの勝利だ。
投手として登板を見合わせている今、まず求められるのは、指名打者としてドジャースを勝利へ導くことだろう。

 その積み重ねが、最終的にPCAを上回る評価につながるのか。MVPを巡る争いは、これまでとは異なる構図で後半戦へ進んでいくことになりそうだ。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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