―[言論ストロングスタイル]―

 この10年間を振り返ると、日本と世界は大きく動いた。ロシアはウクライナで自縄自縛となり、中国は経済失速と軍の腐敗に苦しむ。
そしてトランプは「日本をアジア太平洋の共同経営者に」と持ち掛けてきた。歴史の歯車が回り始めた今、「戦後レジーム」を脱するための条件は揃っている。あとは日本の「決断」だけだーー憲政史研究家の倉山満氏はそう呼びかける(以下、倉山満氏による寄稿)。
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「日本が亡ぶのではないか」と不安に苛まれた野田内閣

 2012年に『嘘だらけの日米近現代史』を上梓した。当時は野田佳彦内閣。無能を極めた民主党内閣で、デフレ下の消費増税などという愚行が強行された。

 当時の日本人は「このままでは、もしかしたら日本が亡ぶのではないか」との問題意識にさいなまれていた。そんな多くの日本人に回答を提示したのが「嘘だらけの日米~」であった。

 既に戦争に負けて、アメリカの持ち物になったのだから。ソ連、次いで中国が「俺にも日本を寄こせ」とちょっかいを出してきて、北朝鮮にさえコケにされる。そんな中、「韓国だけにはバカにされてなるものか」との歪んだナショナリズムが育ちつつあった。

 そんな状況に私は処方箋を示した。別に今さら亡びるなどと心配する必要は無い。
ただし、もっと悲惨な滅び方はある。たとえば、チベットやウイグルのように。それに比べれば、日本はまだまだやり直せる。では、どうすればいいか。

舐めてはいけない「やる時はやる」アメリカ

 まず等身大のアメリカと向き合おう。歴史を紐解けば、ジョージ・ワシントンやアブラハム・リンカーンの時代から、北朝鮮をとやかく言えない歴史歪曲の数々。二つの世界大戦に勝ったとはいえ、基本的にバカでヘタレ。掴んだ覇権も上手く運用できない。しかし、

 舐めてはいけないのは、「やる時はやる」こと。ピンチになれば必ず「やる時はやる」リーダーが出てきて、何とかする。

 そんなアメリカのことを、日本は戦後もある時期までは「番犬様」と呼んで接していた。それがいつの間にか自信を失ってしまっている。

 私は旧著「嘘だらけの日米~」に「日本は戦争に負けたのではない。
負けたフリをしていただけだと言える日が、いつの日か来るように」との願いを込めた。目の前ではないか。

どこが「厳しさを増す日本の安全保障環境」なのか

 しばしば、「厳しさを増す日本の安全保障環境」などと言われるが、どこがだ?

 北朝鮮は青息吐息で、韓国併合を放棄する有様。無警告でミサイルを撃ちあげているが、日本の領域に入らないように(あれでも)遠慮しているのだ。日本からしたら拉致被害者さえ返してくれたら、「いつまででも(ほどほどに)元気でいてくれ」の存在だ。

 ロシアは「お前は主権国家と認めない」などと侮っているウクライナで足を取られ、苦戦している。もはや外国を侵略する能力が無いと白状しているようなものだ。

 中国の台湾侵攻を煽る向きがあるが、いつどうやって? 台湾島に侵攻するとしたら、台湾軍単独を相手にするだけで30万人の動員がいる。そんな数の地上軍が動員されれば、間違いなく兆候がある。

 そもそも習近平は軍高官を信頼しておらず汚職摘発と称して解任の嵐。経済も、一時期の好況もどこへやら。

「日本はアジア太平洋の共同経営者になる気はないか」

 そして何より、アメリカの態度が変わった。ドナルド・トランプ大統領の登場である。トランプ政権の行動様式は明白だ。
公約したことを実行する。これほど予測が立てやすい大統領はいない。

 トランプは一期目から言っていた。「第二次大戦後、アメリカは世界中に軍隊を派遣し、若者の血を流し、国費を浪費した。それで何を得たか?

 世界中の恨みを買い、多数で普通のアメリカ市民である中間層が没落し、ウォール街の金持ちが潤い、中国が台頭しただけではないか。

 ならば、いったんアメリカは世界の警察官をやめて引いて、ヨーロッパや日本のような金持ちの国には自分の国は自分で守ってもらう。その間にアメリカは経済を立て直し、それから再びアメリカを偉大な国にする。」と。その通り、日本やヨーロッパの同盟国に対して接している。

 日本に対しても「日本はアジア太平洋の共同経営者になる気はないか」と持ち掛けている。「アメリカは世界中の国を守る余裕はない。だから日本のような金持ちの国は、自分の国は自分で守ってくれ。GDP2%くらい当然だろう。
必要ならば、核武装も容認する。しかし、やる気がないなら、在日米軍の駐留経費を払え」と言ってきた。

アメリカの申し出を”スカした”安倍晋三元首相

 これを見事にスカしたのが、当時の安倍晋三首相である。いち早くトランプの就任前に訪米し「日本の自主防衛は現実的ではないと説得した」と自慢げに語っていた。安倍晋三が語っていた「戦後レジームからの脱却」とは何だったのか。戦後さんざん日本の自立を邪魔してきたアメリカから「大国に戻ってくれ」と頼んできたのだから、「はい喜んで」と応じれば良いではないか。

 ただ、それも時は流れ、岸田文雄首相の時代に「防衛費GDP2%突破」「防衛計画の抜本的見直し」に着手した。

 そして現在の高市早苗首相である。

 今年の正月頃、自民党代議士と「高市さんは運がいい。内閣の命運を懸けなくても、皇室典範改正などという歴史に残る偉業を達成できるのだから」と笑いあっていたものだ。最終局面での不手際の連発と法案の出来の悪さから、とても歴史に残る偉業であるとは言えなくなったが。高市首相、皇室に興味が無いのがバレてしまった。ただし、これは致命傷ではない。


日本を大国に戻すための政策とは何か

 しかし経済には熱心だったはずだ。なぜか衆議院で圧倒的多数を持ちながら、肝いりの消費減税さえ進まなかった。減税そして景気回復などさっさとやってもらって、日本を大国に戻すための政策に着手してもらいたいのだが。

 日本を大国に戻すための政策とは何か。自衛隊を軍隊にすることである。あらゆる意味で自衛隊は軍隊ではない。ヒト・モノ・カネが足りない。軍隊としての法体系が整備されていない。何より、「軍隊としてどうやって戦うのか」を考えていない。

 同じ防衛費を増やすのでも、アメリカに言われた宿題だからやるのと、大国に戻るつもりで増やすのでは意味が違う。

 何より大事なのは、国家意思だ。行政のルーティンをこなすのが政治だと思ってもらっては困る。
進むべき道を示すのが総理大臣だ。

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【倉山 満】
憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。トランプ再来で揺れる世界を見通すための新章を追加したベストセラー『増補版 嘘だらけの日米近現代史』(扶桑社新書)が発売中
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