57年ぶりとなる夏の甲子園出場を果たした秋田・横手高校。試合後には参考書を手にする選手たちの姿があった。

「甲子園期間中くらい野球に集中しないと失礼」横手高ナインの“...の画像はこちら >>
 テレビ朝日系「熱闘甲子園」では、試合を終えた横手ナインの宿舎での様子が紹介された。食堂で食事を取りながらテレビで次の試合を見守り、食事後の取材では、化学の参考書などを手にした選手たちの姿が映し出された。

 甲子園に来ても、勉強は続く。“文武両道”を思わせる場面だった。

甲子園期間中の勉強に「相手に失礼」との声も

 一方、SNS上では、甲子園期間中も勉強する選手たちについて、「甲子園期間中くらい野球に集中しないと相手にも失礼」「勉強の効率も悪い」といった趣旨の声も上がった。

 もっとも、SNS上ではこういった声に対し、「何が相手に失礼なのか」「高校生の本分は勉強ではないのか」「文武両道を体現していて立派」といった反論が目立った。

 では、そもそも高校3年生にとって、8月とはどんな時期なのだろうか。

高校3年生にとって8月は「大学受験前」の大事な時期

 高校野球の世界で8月は、夏のクライマックスである。しかし、受験生の時間感覚で見れば事情はまったく違う。夏休みは「まだ入試まで時間がある」という季節ではない。

 いまの大学入試は、年明けの一般選抜だけではない。2025年度の大学入学者のうち、総合型選抜と学校推薦型選抜による入学者が合わせて過半数を占めている。

 総合型選抜では9月以降に出願が始まり、学校推薦型選抜も含めて秋に選考が本格化する。志望理由書、小論文、面接などに備える受験生にとって、8月はまさに準備の真っ只中なのだ。
一般選抜を目指す受験生にとっても、夏はまとまった学習時間を確保できる重要な時期といえるだろう。

 つまり、進学を目指す高校球児にとって8月は、野球の夏であると同時に、受験の夏でもあるのだ。

 そして、ここに高校野球ならではの事情が重なる。

 大学などへの進学を考える高校3年生の多くは、夏を迎えるころには部活動を終え、受験勉強へと軸足を移していく。インターハイなど夏まで全国大会が続く競技もあるが、地方大会を勝ち抜いた高校球児は8月になっても現役生活が続く。

 ただ、甲子園に出場したからといって、「受験生」であることをいったん脇に置けるわけではない。

 そう考えると、横手の選手たちが参考書を持って甲子園に臨んだことは、それほど特別なことなのだろうか。野球に取り組み、試合を戦い、空いた時間には勉強する。それだけのこととも言えるだろう。

甲子園では「野球だけに集中する選択」も尊重されるべき

 ただ、逆の立場から考える余地もある。

 夏の甲子園は、全国からわずか49校しか出場できない舞台である。高校3年間を懸けてようやくたどり着いた場所なのだから、その期間だけは勉強をいったん忘れ、野球と仲間との時間にすべてを注ぐ。それもまた、十分に理にかなった考え方ではないだろうか。


 3年生にとって、甲子園に立てる機会はもう二度と巡ってこない。一方、受験勉強は甲子園を離れた後にも続けることができる。「いましかできないことを優先する」という選択にも、確かに説得力はある。

 だからこそ、この問題に一つの正解があるわけではない。

 野球だけに集中するのもいい。空いた時間に参考書を開くのもいい。どちらを選ぶかは、本人たちが決めればいいのだ。

試合後の勉強は本当に対戦相手への失礼にあたるのか

「甲子園期間中くらい野球に集中しないと失礼」横手高ナインの“試合後の勉強”に賛否…「文武両道」に正解はあるのか
高校野球
 筆者にも高校3年生の娘がいる。総合型選抜に向けて夏休みも準備を続ける姿を見ていると、進路や時間の使い方は、最終的には本人が考えて選ぶものだと改めて感じる。

 もちろん、それと「勉強することは相手に失礼」という話は別だ。

 グラウンドで手を抜いたのならともかく、試合後に参考書を開くことが、なぜ対戦相手への敬意を欠くことになるのか。そこには、私たち大人の側が作り上げた「高校球児とはこうあるべきだ」という像が入り込んではいないだろうか。

 高校野球では、選手たちが野球に打ち込んできた日々や、最後の夏に懸ける思いがしばしばクローズアップされる。
そんな高校生のひたむきな姿に心を動かされることも、甲子園の魅力の一つだろう。

「高校球児はこうあるべき」という理想像を押しつけない

 ただ、高校球児の人生は野球だけでできているわけではない。

「文武両道」という言葉についても同じである。野球でも結果を残し、勉強でも高い成績を収める。そんな高校生だけを称える勲章のような言葉になれば、結局は別の物差しで彼らを測ることになってしまう。

 本来は、もっと自由でいいはずだ。甲子園では野球に没頭する。食事を終えたら参考書を開く。どちらも高校生活の一部である。

「甲子園で勉強するのはアリかナシか」。そんな二者択一で考えること自体が、少し違うのかもしれない。

 甲子園でユニホームを着ていても、彼らは一人の高校生だ。
勉強するか、野球だけに集中するか。その時間の使い方まで、大人が一つの正解を決める必要はない。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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