相次ぐ「自動ナンバープレート読み取り装置」の破壊
捜査当局が逃走車や盗難車など、犯罪に関与したとされる車の追跡などを目的に道路に設置される撮影機器「自動ナンバープレート読み取り装置(ALPR)」の破壊がこの夏以降相次いだ。装置の破壊は「当局による市民の監視」への反発とされており、ハロウィーンに向けてソーシャルメディアに破壊行為をあおるような投稿が拡散しているからだ。読み取り装置は撮影の機能を持っているが、変装していれば逮捕されるリスクが低まるため、ハロウィーンが破壊を助長させることになる恐れがある。アメリカでは家庭的なイベントとして定着しているハロウィーンで「暴力の拡散」が起きれば前代未聞の事態であり、日本をはじめ、海外のハロウィーンにも影響を与えかねない。
読み取り装置は街灯に似た金属製のポールに設置され、通過する車のナンバープレートをカメラで撮影し記録する。
アメリカ国内に設置されている読み取り装置の80%以上が、アトランタに本社を置くFlock Safety(フロック・セーフティー)社の製品であることから、アメリカではこの装置を「フロックカメラ」と通称で呼ぶことが多い。
捜査の機密に関係するため、装置の設置場所の多くは公表されていない。行動が記録されるのは犯罪に関与した車両だけではなく善良な市民の車も同じであり、一般市民からすれば、気が付かないうちに行動を監視されていることになる。
プライバシー保護を訴え、警察などによる装置の契約破棄を呼びかけている民間団体のDeFlock(デフロック)は独自の調査などで設置場所を割り出し、地図にまとめて公開している。ニューヨーク市内の地図を見ると、仕事で頻繁に通る交差点付近に装置が設置されていることになっていた。これまで何回通過しても、まったく気が付かなかったが、改めて現場に行ってみると、両方の車線を撮影できるように各車線に1台、計2台の装置が交差点付近に設置されているのを見つけた。悪いことをしているわけでもないが、できることならば、今後この交差点は通りたくないと率直に感じた。
AIを導入、監視機能を強めたカメラネットワーク
フロック社によると、このシステムにより、’25年には1万人以上の行方不明者の発見につながったという。1日に換算すると、27人以上を見つけたことになる。また約100万件の犯罪捜査に役立ったとしている。
トランプ政権で強引な移民の取り締まりを実施する移民・税関捜査局(ICE)はフロック社と直接契約はしていないが、契約する地域警察が読み取り装置の情報をICEに提供し、多くの移民が身柄を拘束されている。
それまで監視カメラを気に留めていなかったアメリカ人でさえも、高性能システムの能力を知り、関心を向けるようになった。「何もしていないのに、無断で監視されるのは心外だ」という反発も強まった。
テキサス州ヒューストンの高級住宅街オールド・ブレイズウッドで7月、町内に設置された4台の装置が破壊された。
装置の破壊はこの夏から目立ち始め、アメリカの公共放送NPRによると、同様の破壊行為は36州で発生している。
警察官によるシステムの悪用も、市民の読み取り装置への不信感を強める一因だ。ケンタッキー州では8月、元交際相手の女性につきまとうため2000回以上も読み取り装置を悪用した警察官が逮捕された。ワシントン・ポストによると装置を悪用して告発された警察官ら法執行機関の職員は50人以上にのぼる。
読み取り装置を導入した行政も、見直す動きを見せている。テキサス州のグレッグ・アボット知事は、装置についての州予算の支出を一時停止することを明らかにした。フロリダ州のロン・デサンティス知事は、州が管理する道路に設置された読み取り装置の撤去を命じた。デサンティス知事は装置について「制御不能な状態にある」と分析している。
アボット知事もデサンティス知事も、治安当局が厚い信頼を寄せる「厳罰主義」の共和党員だ。読み取り装置への反発が「人権派」が多い民主党員だけでなく、保守派の共和党員に広がっていることを証明する動きである。
こうした中、ネット上で装置破壊をあおる投稿が拡散している。8月にフェイスブック上に「De-Flock America」(民間団体のデフロックとは無関係)という名のキャンペーンが登場し、Xなどのプラットフォームで書き込みが増えた。破壊をあおる書き込みが2日で3万6000件を超すこともあった。現時点で、このキャンペーン名での破壊行動は起きていないが、10月31日のハロウィーン当日に向けネット上の書き込みに刺激された破壊行為が起きる可能性があることから、各地の警察が警戒している。
子供たちに菓子をふるまう平和的なイベントであるハロウィーンが、社会の不満のはけ口になるような事態になれば大きな社会問題となる。ネット上のキャンペーンは国境を軽く超えるため、日本にとっても気がかりな動きだ。
【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
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