仕事が立て込んでいる時期は、家族と交わす言葉が「先に寝てて」「ごはんある?」くらいで一日が終わってしまう。忙しさを理由に、大事な話をつい後回しにした経験は、働く人の多くにあると思います。

内閣府の「男女共同参画白書」(令和7年版)によると、2024年の時点で、共働きの世帯は専業主婦の世帯の3倍以上になっています。「夫は外で働き、妻は家を守る」という形の家庭は、数のうえではすっかり少なくなりました。

定年の日に知った妻の秘密。帰宅したら“離婚届と置き手紙”が…...の画像はこちら >>
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、定年の日の夜、妻が置いていった離婚届を見つけた60歳の男性の話。便箋には、思いもよらない告白が書かれていました。

記事の後半では、定年で受け取る退職金の相場など、この話にかかわる数字を調べてみました。

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典型的な仕事人間だった

 男性は外へ出て仕事に没頭し、女性は家事をして家庭を守る。昔はそんな構図が一般的でしたが、最近では夫婦のカタチも変わりつつあります。

 もはや、男女の区別や差もなくなりつつあるのではないでしょうか。今回取材した男性は、忙しい仕事を理由に家庭を顧みなかったことでおおいに後悔したそうです。

「会社に入った頃は、ちょうどバブルの絶頂期でクルマも飛ぶように売れましたね。もともとお酒も好きだったので接待なども苦にならず、帰りはいつも午前様でした。その後、昇進も果たし定年まで本当にあっという間でした」

定年の日に知った妻の秘密。帰宅したら“離婚届と置き手紙”が…夫が妻から受けた「哀しすぎる報告」/定年退職金の平均はいくらなのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
 そう語るのは、カーディーラーで営業一筋の中村さん(仮名・60歳)。真面目だけが取りえで、休日返上で働き、32歳でマイホームも購入しサラリーマン一筋で人生を駆け抜けてきました。
家族は、妻の美咲さん(仮名・55歳)と愛犬1匹です。

「美咲はもともと翻訳の仕事をしていたので、結婚後も自宅で続けていました。でも、よく考えると同じ屋根の下に住んでいるというだけで、美咲とゆっくり時間を過ごしたことはなかったように思います。だから、定年後はそういう時間を作りたいと思っていました」

定年の日に起きた信じられない出来事

 定年を迎えたその日。同僚たちが盛大な”お疲れ様会”を開いてくれました。後輩社員はもとより、今まで中村さんからクルマを購入した客も集まるなど、思い出深い日になったようです。

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※画像は生成AIによるイメージです
 ただ、その日の帰宅後に信じられないことが起きました。

「飲んで帰った時は、たいてい美咲は先に寝ていてリビングの明かりは消えているのですが、その日は明々とついていたんです。まだ起きているのかと思いながらリビングに入ると、テーブルの上に白い封筒が置いてありました。少し酔っていましたが、なんとなくただ事ではない嫌な予感がしたことを覚えています」

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 嫌な予感は的中することになります。中に入っていたのは、離婚届と一枚の便箋でした。さっきまでのほろ酔い気分が一気に覚め、その便箋に目をやりました。そこにはーー。


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※画像は生成AIによるイメージです
「定年ご苦労さま。めでたい時にすみませんが、最近体調が思わしくなく病院へ行くと、膵臓癌のステージ4と診断されました。もう長くはないそうです。だから、離婚して、あなたは第二の人生を歩んでください。私にはもう希望も未来もありませんので」

タクシーに乗り真夜中の東名で妻の元へ

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※画像は生成AIによるイメージです
 美咲さんからの手紙を読んだ中村さんは、しばらく床に平伏し嗚咽したといいます。その後、美咲さんの所在を探しました。

「今更遅いのですが、仕事にかこつけて家庭を顧みなかった自分が情けなくてしょうがありませんでした。美咲のことを気にかけていれば、体調の悪化も見抜けたでしょうし、一緒に病院にも行けたと思います」

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 中村さんは、とにかく美咲さんに会いたい一心で居場所を突き止めようといろいろ考えました。実は以前も一度だけ派手な夫婦げんかをした時に、何も告げずに実家のある静岡県の沼津に帰っていたので、中村さんは今回もそうだろうと確信。酒が入っていたのですぐにタクシーを呼び、真夜中の東名で沼津に向かいました。

退職金のすべてを妻の治療に充てると決意

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 明け方に美咲さんの実家に到着した中村さんは、妻の実家のチャイムを鳴らしました。

「中から美咲の姉が出てきました。姉は事情を知っているのか、私の顔を見ても驚く気配は見せず、美咲が入院している病院を書いたメモを渡してくれました。明け方に行っても迷惑なので仮眠をとらせてもらい、9時ごろに家を出ました」

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 中村さんは、美咲さんの実家から30分ほどの大学病院まで急ぎました。
あっという間に病院に到着した中村さんですが、ちょうど主治医の回診などがあり、しばらく待合室で待つことになりました。

「もう、早く会いたくてたまりませんでした。しばらくして、担当の看護師さんが呼びにきてくれ、私は急足で美咲が入院している4人部屋に入りました。ゆっくりとカーテンを開けると、なんだか寂しそうな美咲が横になっていました。私は無言で手を握り、声を殺して涙を流しました」

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 美咲さんの治療は始まったばかりで、まだこの先の状況はわかりませんが、中村さんは、退職金の全てを積極的な治療にあてたいことを美咲さんに伝えたといいます。

「何かが解決したわけではありませんが、美咲の病気に対して、一緒に立ち向かってよいかと尋ねると、静かにうなずいてくれました。私はうれしくてしょうがありませんでした。この先、美咲の余命がどの程度なのかは分かりませんが、今までの人生で一番濃い時間をともに過ごしたいと思います」

<取材・文/八木正規>

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■定年退職金の平均は1896万円

厚生労働省の「就労条件総合調査」(2023年)によると、勤続20年以上・45歳以上で定年を迎えた人の退職金は、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で平均1896万円、高校卒(同)で1682万円でした。この金額には、一時金だけでなく、企業年金として受け取る分も含まれています。

中村さんは、この退職金のすべてを美咲さんの治療にあてたいと伝えました。一方で、公的な医療保険には、ひと月に払う医療費に上限を設ける「高額療養費制度」があります。厚生労働省によると、2026年8月からの制度では、70歳未満で年収約370万~約510万円の人が医療費100万円の治療を受けても、自己負担は約9.3万円までに抑えられます。

保険がきかない治療や、入院中のこまごまとした出費もあるため、実際にかかる額は人によって大きく変わります。
それでも、退職金に手をつける前に使える公的な支えがあることは、知っておいて損のない話です。

■膵臓がんは「小さいうちは症状が出にくい」

国立がん研究センターの「がん情報サービス」によると、2023年に膵臓がんと診断されたのは47540人。男性が23761人、女性が23779人で、男女でほとんど差がありません。

同じがん情報サービスの解説ページでは、膵臓がんについて「がんが発生しても小さいうちは症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません」と説明しています。腹痛や食欲不振、腰や背中の痛みなどが出てくるのは、がんが進んでからのことが多いそうです。

「美咲のことを気にかけていれば、体調の悪化も見抜けたでしょう」と中村さんは悔やんでいました。症状が出にくいということは、美咲さん本人にとっても気づきにくい病気だったということになります。

中村さんが一緒に病院へ行けていたら、何かが変わっていたのか。美咲さんはなぜ、病気を打ち明けるのではなく、離婚届を置いて家を出ることを選んだのか。退職金の平均額も、膵臓がんと診断された人の数も、その答えまでは教えてくれません。

「今までの人生で一番濃い時間をともに過ごしたい」。中村さんがそう思えたのは、定年の日の夜でした。
同じ屋根の下にいる人と、最後にゆっくり話したのはいつだったか。今夜の帰り道に、少しだけ思い返してみたくなります。

<再構成/日刊SPA!編集部>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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