◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
4月29日。毎年、体重無差別で柔道日本一を争う伝統の全日本選手権が行われる日だ。
初戦は81キロ級の選手に得意の袖釣り込み腰で豪快に一本勝ち。2回戦は100キロ超級の選手に勝負をかけた大内刈りを返され一本負けしたが、軽中量級の選手が重量級に立ち向かう姿は全日本の醍醐(だいご)味。挑戦をたたえ、場内を包んだ拍手に胸が熱くなった。
今年から体重無差別の大相撲担当になり、昨年までの8年間は柔道を追った。一度、全日本に対する思いを聞いたことがあった。「出たいですね。柔道家だったら1回は憧れる舞台なので」。阿部は迷いなく答えつつ「中途半端になるなら出ない。自分の満足いく状態に仕上げて出場したい」と条件を加えた。
「その時」が来るのを注目して待った。
試合後、声をかけた。何年も前に出たいと話していたこと。その挑戦を見届けられた感慨と敬意を素直に伝えた。「そうですね…」。阿部は一瞬うつむき、心底悔しそうな表情を見せた後で顔を上げた。「最後、攻めにいけたので。自分らしく戦えた。悔いはないです」。柔道で体重差の不利は大きい。それでも信念を貫き、本気で勝ちにいった覚悟に触れ、五輪王者の強さを改めて感じた。
◆林 直史(はやし・なおふみ) 2007年入社。プロ野球、サッカーなどを経て、25年から大相撲担当。五輪は夏冬4大会を取材。