◆ラグビー リーグワン・プレーオフ決勝 BL東京18―13東京ベイ(1日、東京・国立競技場)

 リーグワンで初の2連覇を達成し、新たな歴史を刻んだBL東京。今季はレギュラーシーズン(RS)で741得点、110トライを挙げともに最多だった。

攻撃をデザインする森田佳寿コーチ(36)のもと、チームが掲げたのは「KBA(キープ・ザ・ボール・アライブ)」。ボールがつながり続けるラグビーを、追求してきた。

 リーグワン初の2連覇。BL東京フィフティーンの躍動に、森田コーチは胸を張った。「選手が、僕たちのやりたいラグビーをしたということが、何よりうれしい」。攻撃においてチームで共有してきた「KBA」は、人とボールが動き続けるラグビーを目指す。緻密な取り組みと信念で、2連覇の礎を築いてきた。

 描いたのは、集団として脅威となり、スピード感あるラグビー。RS中、相手にタックルされながら味方につなぐ「オフロードパス」の数は、SOモウンガら3人がリーグの上位を占めた。オフロードはつながれば相手の守備網を破り大きなチャンスとなるが、失敗すればボールを失うリスクも伴う。DFコーチの側に立てば、ターンオーバーされる可能性もある選択。その中でも、森田コーチは「ボールを生かし続けるのは、僕たちのDNA。

僕たちのオフロード、サポートのポリシーが根付くまでやる」と、こだわりを持って取り組んできた。

 シーズン前から、準備は緻密。相手守備網に「少しのひずみ」を生じさせるため、ボール1個分のスペースを探す意識づけをしてきた。「少し汚くてもいいからボールを動かし続けることによって、(守りに)少し違った不規則性が出てくる」。ドリルやミニゲームを使い、体勢を崩されながらも投げる技術、そしてパスが乱れても捕球できるスキルを身につける練習。オフロードでミスが生まれても、正しいプロセスを踏めていれば「これが僕たちのやりたいラグビー」と、説き続けた。選手のスキル・判断力は磨かれ、小さなひずみからやがて相手には大きなギャップが生まれる。ボールを持ち、ゲインラインを超えた距離も今季はBL東京陣が上位を独占。パス回数もリーグの中でも有意に多く、KBAを体現してきた。

 特徴的なシーンが、決勝戦の後半12分。敵陣左サイドで3度、右で2度オフロードをつないでトライに迫った。SOモウンガへのパスが前に放られたとしてトライはキャンセルとなったが、「あれが僕たちが表現したいラグビー。

僕たちが勝っていく道」と森田コーチ。オフロードを受けるラインの入り方も、実践と練習や試合のレビューで細かく指南してきた。練習の振り返り動画は、すぐにチームで共有される。今季、ある日の練習後。ノンメンバーの選手が定食屋で、食い入るようにスマホのレビュー動画を見ていた。店員さんから「ご飯、できたよ」と言われて気がつくほど。チームとしての意識は、醸成されていた。

 「今年僕たちが、違いを生み出したかったこと」。その一つが、オフロードパスだった。この日、今季の成果の一端を見せ、2連覇したが森田コーチに満足はない。「今シーズンで数字はいいものが出たけど、毎週、毎日レビューをしながらよりよく出来ると思っているので。よりよく出来る方法があるだろうなと、いつも探しながらやっています」。

オフロードは、決してギャンブルではない。チームのポリシーに基づいた、確かな戦術でありスキルと示した。「(今季の成績が)手応えだとは、思っていない」。進化を続けるチームの指導者は、常に前を見続けている。(大谷 翔太)

 ◆森田佳寿(もりた・よしかず)1989年5月15日、奈良県出身、36歳。御所工(現御所実)から帝京大に進み、4年時に大学選手権3連覇。ポジションはSOでU20日本代表。2012年にトップリーグ時代の東芝に入団し、14年から主将。19年に現役引退後チームスタッフとなり、22―23シーズンからコーチングコーディネーターに就任。現役時は173センチ、85キロ。

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