大相撲で史上最多の優勝45度を誇る元横綱・白鵬の宮城野親方(40)が9日付で日本相撲協会を退職すると2日、同協会が発表した。同日に東京・両国国技館で開かれた臨時理事会で承認された。
*******
苦渋の決断だったことは理解できるが、土俵際、もうひと踏ん張りしても良かったのではないか。協会側は年明けには部屋再興の案を持ち、親方側の耳にも入っていたと聞く。あと半年、なぜ我慢できなかったのかと思う。何より、気の毒なのは伊勢ケ浜部屋に転籍してきた旧宮城野部屋の弟子、行司、呼び出し、床山ら関係者だろう。「僕らは土俵に集中するしかない」と不安を抱えながらも、宮城野親方が師匠に復帰する日を信じて、前を見て進んできたからだ。
弟子の問題を発端に宮城野部屋が消滅した約1年前、宮城野親方は、母・タミルさんに諭された。「人を育てるということは、欠けた茶わんを直すように簡単にはいかないんだよ」と。厳しくも、愛情のこもったメッセージに「出直しだね。頑張らないと」と宮城野親方は、改めて相撲道と向き合うことを誓った。
風向きが変わったのは年明け前後だった。処分から1年が近づいた3月の理事会でも議題に上がらず不安が募り、周囲に「協会はどう考えている?」と頻繁に口にするようになった。自分の中で区切りと考えていた1年が終わり、「そんなに長くは待てない」と頭の中で退職の文字が大きくなった。「協会への憤りというより、気持ちが切れてしまった」と関係者。当然、多くの人から説得を受けたが、外の世界に飛び出す思いの方が勝ってしまった。
現役引退後、「相撲界に育ててもらったので横綱、大関を育てることが恩返しで義務」と話していた。伯桜鵬の入門時には「私が経験したことを君にも経験させる」とまで伝えていたという。華々しい実績と積極的なファンサービスは誰もが認めるところだ。だからこそ「横綱・白鵬」の名前が一番輝くのは角界にいてこそだろう。(斎藤 成俊)