◆明治安田 J1リーグ▽第19節 C大阪4―2清水(1日・ヨドコウ桜スタジアム)

 【関西サッカー担当・森口登生】この日のヨドコウには、愛があふれかえっていた。

 「一生忘れることない日ですし、もう試合前から試合中、試合終わってまでずっともう僕の応援歌を歌ってもらって、本当に改めてこのチームで良かったなって思えた瞬間ですし、幸せな1日でした」(北野)

 短くも、この言葉に詰まっている気がする。

オーストリア1部ザルツブルクへの移籍準備のため、この日でチーム離脱が決まっていたMF北野颯太は試合前、負傷離脱中であるMF田中駿汰から託されて自身初となるキャプテンマークを巻いた。粋な演出に、スタメン出場で2アシストと貢献して応えた。北野が途中交代となった試合後、もう一度キャプテンマークを手渡したMF香川真司。セレモニーで涙を流す20歳に、大声援を送り続けたサポーター。その光景に優しいまなざしを送る選手や、本人と同じくらい涙があふれ出た選手。そして北野本人から、クラブや家族への愛が詰まった約10分間の言葉。北野からクラブへ、クラブに関わる全ての人から北野へ。そんな「愛」の行き来に、グッとくる一日だった。

 この日も頼もしすぎたFWラファエルハットン。後半9分に奪った今季8ゴール目、壮行の思いをこめて決めきった。「シーズンはじめから彼は欧州に行きたいと私に言っていた。日々の練習から見ていると、そういう意識でやっているのだなと。

目標を置いてそこに向かって努力していると感じていた。彼の持っている謙虚な姿勢と、強いメンタリティーは生かせると思う」。FWルーカスフェルナンデスとの2人が北野のアシストから得点を奪ったが、1試合を通して、PKを譲った場面をはじめ、助っ人2人がシュートシーンで北野にボールを集める場面が多いように見えた。そのことをハットンに聞くと「彼にとって特別な日。良い形で送りたいなと思っていた。PKなんかはいつもは自分が蹴る役割ですが、彼が蹴りたいというところは尊重しましたし、2アシストというところで彼も結果を残せたのではないかと思う。(北野にボールが集まったのは)自然といい場所にいたというのもあるが、彼を狙ったというところ。心のどこかにはもしかしたら良いパスを出して上げたいという思いはあったのかもしれないね」とさわやかに笑った。

 20歳の若さでリーダーシップグループに据え、「若い選手ながら責任感を与えて、オンザピッチ、オフザピッチのところで成長させる狙いがあった」と話したアーサー・パパス監督の期待に応えるように、一気に夢の海外挑戦まで駆け上がったワンダーボーイ。取材しはじめてからの月日は長くないが、どこまでも「ナチュラル」でナイスガイという印象だ。対戦相手に対して強気な発言あり、「時間ある時は(YouTubeの)『がーどまん』とか『レイクレ』とか見てます」などと自身のことをぶっちゃける時もあり。2日の空港でも、渡欧に向けての必需品を聞くと「服くらいあればいいかな」と即答。

どこまでも「飾らない」、独特の温度感が報道陣からも愛される一因だったように思う。

 練習後の取材では試合後の場内一周では、スタンド最前列に座っていた子どもに自らが着用していたユニホームをプレゼント。「元々約束していた子? 下部組織に関係している子?」と記者同士でも憶測が飛び交ったが、真相はどれも違った。「いや、全然知らない子で。紙書いてくれてて。最初セレモニーのことで頭いっぱいで、全然分からんくて(笑)。ほんならジンさん(ジンヒョン)が教えてくれて。『ちょうだい』みたいな(紙を掲げていた)。ちっちゃくて可愛い子どもだったので」。まさに単純明快。一点のよどみもない、最後まで「ナチュラル」な男が取った行動は、受け取った少年の心に一生刻まれた瞬間だっただろう。

 「セレッソがより好きになりましたし、本当に帰ってきたいクラブ。

ただ、すぐには帰ってきたくないので。しっかりあっちで結果を出して、日本代表になって、そこまで行って、帰ってこれるなら帰ってきたい」

 強い覚悟を突き刺すように発せられた言葉が、耳から離れない。私もサッカー選手、そして人間「北野颯太」に魅せられた一人。夢を実現させていくその過程を、サポーターの皆さんとともに引き続き見届けていきたい。

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