プロボクシング元世界4階級王者で、前WBO世界スーパーフライ級王者・田中恒成(29)=畑中=が4日、現役引退を発表した。畑中清詞会長(58)とともに、4本のベルトを並べて名古屋市内で会見し「プロボクサー田中恒成は引退することをご報告させていただきます。

理由はけがが全て」と右目の網膜剥離(はくり)であると告白。「両目で焦点を合わせることができなくなった。次試合をすれば失明(の可能性も)。リングへ上がる道がなくなり、引退を決めました」と説明した。

 田中は昨年2月、同王座決定戦に勝利し、史上最速の21戦目で、井岡一翔(志成)と井上尚弥(大橋)に次ぐ日本人3人目の世界4階級制覇を達成。同10月の初防衛戦でプメレレ・カフ(南アフリカ)に判定負けして陥落も、試合2日後にSNSで現役続行を表明していた。それが一転、引退。「(カフ戦が)始まってすぐ右目が見えなくなり、3ラウンド目には光が消えた」と明かした。試合後の手術は成功したが、実戦練習もできない状態で「4月頃。周囲に相談し、最後は自分で」とグラブを置くことを決断した。

 今後は未定だが「ボクシングは好きなので関わっていきたい。ジム会長かトレーナーの2択ではなく、いろんな可能性を探りたい」と前を向いた29歳。

掲げた世界5階級制覇には届かなかったが「悔しいけど、後悔はない」と笑顔で締めた。8月16日に名古屋で引退式が行われる。中京高(岐阜)3年時に世界ランカーを破ったデビュー戦以降、類いまれな速さで相手を凌駕(りょうが)したスピードスター。プロ生活11年。ボクシング界に確かな足跡を残した。(田村 龍一)

 ◆田中 恒成(たなか・こうせい)1995年6月15日、岐阜・多治見市生まれ。29歳。中京高で全国4冠。2013年、プロデビュー。15年、国内最速5戦目でWBO世界ミニマム級王座獲得。16年、同ライトフライ級王座獲得。18年、同フライ級王座奪取で世界最速タイ12戦目の3階級制覇。

20年、同スーパーフライ級王座に挑んだ井岡一翔戦でプロ初黒星。24年2月、同王座決定戦を制し4階級制覇。身長165センチの右ボクサーファイター。プロ20勝(11KO)2敗。父・斉さんはトレーナー、アマボクサーの兄・亮明さんは東京五輪銅メダリスト。

◆リングでは無慈悲も気配りの人…担当記者が労う

 田中恒成ほど人なつっこく、愛される王者を見たことがない。リングでは無慈悲なまでの連打で相手を倒したが、オフに食事会をすれば、皆の皿に焼き肉を取り分ける気配りの人。この日の会見では悔しさもあるはずなのに、名古屋、東京、大阪から集まった報道陣に「来てくれてうれしかった。お世話になりました」と深々おじぎした。

 一度だけ怒ったところを見た。19年3月、田口良一との世界戦計量後。顔を近づけるフェースオフを終え、田口と握手して別れたその時。

出遅れた他社のカメラマンが「もう一度やって」と言った。試合前でピリつく中、田中が“今のを撮り逃したの!?”という表情を見せ、その場が凍った。それでももう一度、そのカメラマンのために田口と、にらみ合った。そういう人だ。

 地元・東海地区での試合が多く、全国的な知名度は井岡や井上には劣るが、紛れもない「怪物」だった。第二の人生も応援したい。(ボクシング担当・田村 龍一)

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