◆報知プレミアムボクシング ▷後楽園ホールのヒーローたち第22回:後編 内藤大助
内藤大助には願いがある。オープンしたジムで実現したい柱が三つあるという。
今でも思い出すだけで気分が悪くなる。こんな子がいるのならば、少しでも力になりたい。偽善ではなく、本心だ。
「自分はいじめに遭い、苦しんだ。だから、いじめに悩んでいる人はぜひジムに来てほしい。
さらにより力を込めたのは、危害を加える立場の人間に対してだ。
「いじめっ子も来てほしい。人間は強くなればなるほど、人を殴らなくなる。毎日ジムのリングで『殴り合い』をしている人は、外では絶対に人を殴らない。これが痛みを知るってことなのかな。強くなれば、人にも優しくなるんです」
いじめの問題には最も太い柱として取り組む姿勢を示している。中学時代、内藤は教師からも不条理な扱いを受けている。
「勉強はできなかったが、運動だけはできた。保健ではなく実技の方で、今度こそ5(5段階評価)がつくと思っていたら4だった。5は1回もなく、先生に聞きに行ったんです。そうしたら、何て言ったと思います。
他の教師からもどなられた。中間テストで赤点を取った時だ。「内藤、何でお前はいつも赤点なんだ。運動ができるのは分かるが、運動神経が良くて将来食っていけるのか?」と耳を疑うような言葉で叱責(しっせき)されたことも、鮮明に覚えている。
二つ目はダイエットしたい女性だ。「飲まず、食わずではなく、うまくやせる。現役時代の経験からこれにも自信がある」。最後三つ目は「高齢者にぜひ、来てほしい。動けるじいじ、ばあばになろう」と訴える。動くのが面倒になり、動かないから動けなくなる。
前編でも触れたが、内藤には節目、節目でニックネームがついている。初めて挑んだ世界戦は敵地タイに乗り込み、1ラウンド34秒でKO負け。この屈辱からついたニックネームは「日本の恥」。亀田大毅に勝利し世界王座を防衛すると「国民の期待」。そして母子家庭のいじめられっ子が、ボクシングを通じて強い人間に成長していく人気漫画「はじめの一歩」の主人公・幕之内一歩の境遇がダブることから「リアルはじめの一歩」。どれも的を射るもので、笑いを誘うのも内藤らしさがにじみ出る愛称だからだ。
現役時代、「1日でいいから何も考えずにゆっくりしたい」と365日思っていたそうだが、今では「暇が一番つらい」という。芸能の仕事がほぼなくなり、「何かしないと」と熟考した末に借金をしてジムをオープン。
「この前、一日中、家にいたら妻に怒られました。『昼間は私が家でゆっくりする時間』といわれ、公園に行ってベンチに座って、ひとり缶コーヒーを飲んでましたから。これじゃ、リストラされたサラリーマンみたいですよ」
内藤は自らを「まぐろ」と表現する。「自分は目的に向かって常に動いているのが性に合っている。止まれない人間。『まぐろ』なんです」。スタート時点ではボクシング協会への加盟は考えていないが、「将来的にはプロの選手を育成する時が来るかもしれない」という。
◆内藤 大助(ないとう・だいすけ) 1974年8月30日、北海道・虻田郡豊浦町生まれ。高校卒業後に上京してボクシングを始める。96年10月にプロデビュー。全日本フライ級新人王となり、日本同級王座、東洋太平洋同級王座も獲得。2007年7月にWBC世界同級王者ポンサクレック(タイ)と3度目の対戦で判定勝ちしタイトル奪取に成功。5度の防衛に成功。身長163センチ。ボクシングスタイルは右ボクサーファイター。