競泳で今夏の世界選手権(シンガポール)男子200メートル平泳ぎ6位の深沢大和(東急)が17日、都内の太陽教育スポーツセンターで、自身が主催の水泳イベントを行った。現役代表選手が水泳教室イベントに参加することは珍しくないが、今回は発案から企画、募集、運営など全てを深沢が担った。

異例とも言えるイベントを敢行し「まずは、自分でやってみたかった。自分としては、成功したと思う」と充実の表情で語った。

 約2時間、小学生から高校生までのジュニアスイマーとのイベント。こだわりを詰め込んだ。ゲスト参加した元チームメートの俳優・濱尾ノリタカと水泳界について会話している時に、イベントを発案。技術を「教える」ではなく、水を楽しむ場を用意した。「社会人は、いつ水泳を辞めてもいい立場。何のために自分が頑張るのかと思った時に、ジュニアや水泳界全体の発展に携わりたいと思った」。トップスイマーとして、憧れの場を提供したい思いもあった。

 このイベント、午前午後ともに参加費は無料。そして陸上、水中でのエクササイズは基本的な体の動かし方が軸で、個別の技術的な指導はなかった。ここにも深沢なりの考えがあった。

「今回のイベントでお金をもらってしまうと、指導になってしまう。指導をしてしまうと(各選手の)コーチに対して失礼かなと」。日本代表選手から教わる経験は貴重だが、選手を日常的にみるのはそれぞれのコーチたち。泳ぎについて教えることで今後、ジュニア選手の中で混乱が起きてしまう可能性は避けたかった。

 ただ、自身の技術論を伝えたい思いはある。選択肢としては選手を呼ぶのではなく、スイミングクラブに出向いてのイベントだ。「そこのコーチと連携が取れていて、自分が行って皆が納得する形ならいいと思う。自分からそのコーチに伝えられることもあると思うし、そうであれば自分も行きたい」。実際、東急のスイミングスクールあざみ野では、イベント開催に向けて動いている。「まずは自分の足元から」と、選手、指導者がそろって場を共有できる方法を模索している。

 異例のキャリアを積んできた。23年に東急入社後、一時引退。

駅員などを経験した。24年パリ五輪を目指して復帰したが叶わず、選考会後に再び競技から退いた。人事部で働く中、上司の計らいもあり東急では異例の“プロ活動”が認められて再度復帰。今年初めて世界選手権の切符をつかみ、入賞を果たした。現役中にこだわったイベントの主催。「今から北島康介さんが成し遂げたことを超えるのは無理。オンリーワンで僕ができることを考えたら、社会人の経験をいかして、自分の信じる水泳のやり方を伝えていくことだった。ただ泳ぎが速くて、10年後に何もなかったら悲しい。競技以外でも、いい影響を与えたい」と、これまでと同様自ら考え動いた。

 今後、水泳イベントは「最低でも、年に2回はやりたい」と深沢。今回は太陽教育スポーツセンターの厚意、そして仲間達のボランティアで成り立ったが、形式は継続開催できる方法を探っていくつもりだ。この日の内容は、自身のユーチューブチャンネルで配信予定。

「何をしたかが分かれば(各)コーチたちも安心すると思う」と、配慮も忘れない。競技では、初めて世界を経験したこの夏。深沢は「やっぱり、世界選手権に出る選手が4年に1回、本気で来るのが五輪。そこで勝ちたいと、前より強く思いました」と語った。トップスイマーとしての価値を、様々な形で高めていく。

 ◆深沢 大和(ふかさわ・やまと)2000年10月16日、東京都出身、24歳。4歳から水泳を始め、慶応高3年時に国体の200メートル平泳ぎ優勝。慶大を経て23年に東急株式会社に就職。同年のワールドユニバーシティゲームズ(中国)で同種目銅メダル。24年世界短水路で銅メダル、25年日本選手権では平泳ぎ2冠。世界選手権代表に選ばれ200メートルで6位入賞を果たした。184センチ、81キロ。

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