◆報知プレミアムボクシング ▽ニューヒーロー第5回 日本ライト級チャンピオン・今永虎雅
抜群のスピードを誇る今永虎雅(26)=大橋=が日本ライト級王座を獲得した。9月14日、名古屋のIGアリーナで行われた王座決定戦で、村上雄大(25)=角海老宝石=を大差の判定で下しベルトを手にした。
王座決定戦から1か月。今永がプロ初タイトルを獲得した一戦を改めて振り返った。「自分の中では100点ではなかったが、練習してきたことを試合の中で試しながらできたので収穫はあった」という。常に冷静でいること、相手との距離感、右ジャブを大事に。手応えはあったのだが、コンディションは「半分か6割ぐらい」だったと顔をしかめた。
試合2週間前に熱中症気味になり調子を崩した。体が急に重くなり、万全とはほど遠い状態だった。計量を終え、リカバリーで本番には間に合うだろうと思ったが、「体がフワフワして足に力が入らなかった」状態で決戦に臨んだ。
61・2キロ以下のライト級で身長177センチは大柄だが、太らない体質のため普段から体重は67キロ程度。「減量という減量はしたことがない」と、ボクサーにはうらやましい響きに聞こえるが、逆にここに落とし穴があった。「今まであまりコンディションとかは考えないで、だいたいの感覚で(調整を)やってきた。今回は早めに体重を落とし過ぎたという反省点もある。自分は太りにくく、代謝もいいのですぐに痩せてしまう。食事の量を減らすと脂肪がないのでエネルギー不足にもなるんです。プロになって体形も変わった。これからはもっと体の仕組みを勉強してやっていかないといけない。そこに気付いたことが、今回の一番の収穫」と声を大にした。
中学1年からボクシングを始め、奈良の王寺工高時代は同期の荒本一成(帝拳)とともに史上初の高校8冠を達成。東洋大では国体、国際大会を制しアマ10冠という輝かしい経歴を持つ。速い回転からキレのあるパンチを繰り出し、相手が打ち返そうとすると、もうその場にはいない。「スピードやキレは自分でもあると思う。だが、世界レベルになるとそれだけでは通用しない。相手との距離感、駆け引き、タイミングとより高いレベルに自分を持っていかなければ」と先を見据えた課題を挙げる。
ライト級というクラスは、日本ボクシング界にとって高い壁だ。これまで世界のベルトを手にしたのは、ガッツ石松(ヨネクラ)、畑山隆則(横浜光)、小堀佑介(角海老宝石)の3人だけ。最近では世界ランカーの吉野修一郎(三迫)、三代大訓(横浜光)といった実力者がともに米国で世界王座への挑戦者決定戦を行い、いずれもTKO負けした。「難しい階級ということは分かっている。吉野さん、三代さんと比べて自分がボクシングのレベルで負けているとは思わない。この状況でライト級でいける(世界を取る)のは俺しかいないと思っている」と自分自身を鼓舞する。
世界を意識した今永に用意された次戦は、まさに大勝負だ。世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)、前WBC&IBF世界バンタム級王者・中谷潤人(M・T)らが出場するサウジアラビアでの興行(12月27日)で、16戦全勝(15KO)のWBA4位アルマンド・マルティネス(キューバ)と対戦する。周囲には「やめた方がいい」という声もあったそうだが、「こんなチャンスはない。わざわざこのチャンスを逃すやつはいない」と強気だ。同じサウジの舞台で東洋大時代の同期で、寮の同部屋で苦楽をともにした堤駿斗(志成)がWBA世界スーパーフェザー級王座決定戦を行うことも刺激になっている。
「大きな舞台で日本タイトルをやって、サウジの試合にもつながった。相手は世界4位だが、対戦の話が来るということは、自分がそういう器であると認められた証拠。自分は常に『神様は乗り越えられない壁は与えてこない』と思ってやっている。自分の気持ち次第。やりがいがあるし、自信はあります」
無敗対決を制し、サウジの舞台から世界挑戦へ一気に近づく構えだ。(近藤 英一)
◆今永 虎雅(いまなが・たいが)1999年8月9日、大阪府河内長野市出身。5歳でグローブ空手を始め、ボクシングは中学1年から。