オリオールズ・菅野智之投手(35)が8日、自らの考えを記す「繋ぐ(つなぐ)」特別版でメジャー1年目を振り返るとともに「自分の信念を貫く」重要性をつづった。チームで唯一1年間ローテを回り、巨人時代を含め自己最多の30登板で10勝10敗、防御率4・64。

データに頼りすぎない投球が必要と受け止めたターニングポイントとなったゲームや、ジャッジらメジャーの強打者と対戦した上での率直な思いなどを明かした。

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 メジャー1年目は長かったけど、あっという間に終わっちゃったなと感じています。1年間ローテを回ったのはもちろん簡単という意味ではないですが、想像していたより大変ではなかった。移動や時差があり、環境も言語も違う中でもチームメートに恵まれ、桜井通訳や佐藤トレーナーらのサポートがあったからこそ、そんなに苦労はしなかったです。

 毎試合発見があって新鮮でしたし、内容のある試合が多かったので全登板が印象的です。初登板【注1】にしても、あんなに体のコントロールができなくなったのは久しぶりだなと鮮明に覚えています。打者もジャッジ、大谷君らすごい選手とたくさん対戦してきて、日本では味わうことができない感覚。例えるなら13年のバレンティン【注2】がいっぱいいるようでした。

 ジャッジ【注3】はもちろんこちらがミスしたら絶対に逃してくれないですし、投げ切っても打たれる。日本にいた時はリリースした直後ぐらいにはその球が空振りになるのか、どこに飛ぶのかが感覚で大体分かりましたが、「見逃しを取れた」と思ってもバーンってバットが出てきてスタンドに入る。それまでの感覚をぶっ壊された気持ちですね。

 シーズン中はたくさんターニングポイントがありましたが、一つ挙げるとすれば7月2日(日本時間3日)のレンジャーズ戦【注4】。

それまでの数試合結果が出ていなくてデータもめちゃくちゃ研究し、捕手やコーチとも相談して「こうやった方がいいよ」と。そして試合に臨みましたが簡単に打たれて「このままじゃ終わっちゃう」と感じましたし、「このまま終わったら絶対に後悔するな」と思い、自分の意志を貫こうと決めました。

 データはもちろん大事ですが、それ以上に自分の持っている感覚や洞察力といった日本で培ってきたものは米国の選手にない力だと思います。例えば真っすぐに強い打者がいて変化球中心の方がいいデータが出ていても、投げていると「真っすぐいけそうだな」という時があります。「でもデータは変化球でスライダー、カットとなってるし、こっちでいこう」と投げて打たれる。「真っすぐいけたな」と自分の感覚が合っていることが多いです。だからそういうのを貫くこと、マウンドで自分を疑わない準備とそれだけの根拠を持つことは来年に向けても重要になると考えています。

 米国では食事面こそ4月中ぐらいまで苦労し、途中まで常にパックのお米を持ち歩いていました。でもいろんな球場で日本人のいるチームに対応してきたチームなどが、日本の方がお弁当を作って届けてくれる業者を教えてくれて、遠征先での食事面にも神経を使わなくてよくなった。これまでと今の日本人の選手たちがそういう環境を築いてくれたので、感謝しています。

 プロに入ってから今年で13年目ですが、このキャリアで毎日勉強やいろんな経験をできるのは本当にありがたいことです。来年は自分の信念を1年間貫いたら、今年よりもいい成績を残せると思います。

(菅野 智之)

 【注1】3月30日(日本時間31日)の敵地・ブルージェイズ戦で先発。初回は先頭にストレートの四球を与え、その後2点を献上した。5回開始前の投球練習中には右手がつり、両手がけいれん。4回4安打2失点で黒星を喫した。

 【注2】当時ヤクルトに在籍し、プロ野球史上初のシーズン60本塁打を放つなど、打率3割3分、131打点、出塁率4割5分5厘。本塁打王、最高出塁率の2冠でMVP。この年の菅野との対戦は9打数2安打、1本塁打、2三振。

 【注3】ヤンキースで今季152試合に出場しア・リーグ首位打者となる打率3割3分1厘、53本塁打、114打点、出塁率4割5分7厘。菅野は今季ジャッジと9打数7安打3本塁打で、ヤ軍戦は4試合に登板し1勝2敗、防御率6・19。

 【注4】先発し、4回2/3をメジャー自己ワースト10安打6失点で5敗目を喫していた。

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