「RADWIMPS」のドラマーで、音楽家に発症する神経疾患「ミュージシャンズ・ジストニア」を公表してバンド活動を無期限活動休養中の山口智史が12日、川崎市の洗足学園で特別対談イベントを行った。

 洗足学園音大出身の山口は、「僕の母校でして、3年通って、自主的に卒業しました」と照れ笑いであいさつ。

会場のホールは18歳の時に入試試験を受けた会場で「22年ぶりです」と感慨深げに話した。

 山口は2009年ごろから、演奏中に右足のコントロールが自由に利かず、バスドラムが踏めない症状にに悩まされてきた。局所性ジストニアと診断され15年9月に無期限活動休養を発表した。21年にドラマーの身体科学を研究する慶大の藤井進也准教授と出会い、ともにジストニアの研究をスタート。演奏中の筋電図を解析したところ、前脛骨筋(ぜんけいこつきん)に顕著に症状が出ることなどが実際のデータとして可視化された。

 ミュージシャンズ・ジストニアは特にドラマーに多く発症しており、音楽家生命にかかわる決断を下した仲間も少なくない。原因や対処法も解明されていないジストニアのことを「あいつ」と呼んでいた山口だが、研究を続け少しずつ謎が解明されていったことで「悩んでいたときは、周囲に『大丈夫だよ』と言われても、現象や理解の共有ができていないから、すごく苦しかった。『あいつ』が『こいつ』になって、共有できることが救われた」と振り返った。

 山口は研究のサポートをするだけでなく、自らも学会に出席するなど研究者としてジストニアについて研究。学会参加を通して「世界中の人たちが知恵を共有して、知りたい謎を知りに行く営みは愛でしかないと思った」と明かし「誰よりも高い欲求がある。自分が研究者として立たないでどうするんだろうと思った」と情熱を注いできた。

 現在は、ヤマハと“声でドラムを奏でる”世界初のシステム・VXDを共同開発中。

のどにセンサーを着け、奏者の発声の瞬間にバスドラムが鳴る画期的な技術だ。この日のステージでも同システムを用いRADWIMPSの「25コ目の染色体」「セプテンバーさん」「いいんですか?」をパフォーマンス。藤井氏、恩師の松山修講師とのツインドラムも披露すると、700人弱の観客も総立ちになって盛り上がり、涙を流すファンの姿も見られた。

 同システムを用い、今夏からは10年ぶりにソロツアーを行うなどパフォーマンスを徐々に再開。「音楽と研究はあんまり自分の中ではカテゴライズされていないというか、全部つながっている感覚。研究をやっている時も音楽をやっていて、音楽をやっている時も研究をやっている感じ。アウトプットが時に論文であったり、時にライブであったりというのを楽しみたい」と語った。

 母校への思いについて「洗足は音大の中で一番の生徒数を誇る学校で、先端的にいろんなことにチャレンジしている」とコメント。自身の活動も踏まえ「ウェルビーイングが今、広く問われている部分があると思うので、洗足とそれを一緒に問うような活動が始まったらいいなと思います」と語った。

 ジストニアの公表からちょうど10年。山口は「すごい恵まれた人生だなと思っています」と前向きに語る。「休養になった時は本当に僕は完全にズタボロになっていたんですよ。

それがなぜ、ここまで楽しく演奏できるようになったかというと、やっぱり人との出会いに恵まれたこと。妻をはじめとして、藤井先生や修さん、素晴らしい人たちに恵まれたことがありがたい。あの時点ではすごく絶望的なできごとだったんですけど、それも含めて自分の経験になっているので、僕は幸運で、出会いに恵まれた人生です」と感謝した。

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