2014~20年にプロ野球・中日に在籍した石川駿さんは、24年より順天堂大学の大学院生となり、スポーツ医学の研究者としての道に進んだ。異例のセカンドキャリアを選択した石川さんの思いに迫った。

(取材・構成=岡島智哉)

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 今年9月、滋賀・草津市で行われた「第79回日本体力医学大会」。合計1602人が参加した権威ある学会において、スーツ姿の石川さんは発表を行った。

 演題は「繰り返されるバッティング動作が肘関節の形態や機能に与える影響」。24年に入学した順天堂大大学院スポーツ健康科学部において、重点的に研究を重ねてきたテーマの発表だった。

 「野球界はまだまだ勝利至上主義。肘が痛い投手も、バッティングはやっていいよって感覚なんです。僕はそれがよくないのでは、と。どれぐらい負荷がかかるのかを実験して、証明しています。大谷翔平選手の活躍もあり、もしかしたら野球界から叩かれるテーマかもしれませんが、小中学生、高校生の未来を守りたいという思いが根底にあります」

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 20年限りでの現役引退後、21年から東京柔道整復専門学校へ。週に5~6日の通学で3年間学び、「柔道整復師」の国家資格を一発で取得した。

 「今の自分の知識では、野球界に何か大きな貢献をできるわけではない」と考え、資格取得後も勉学を極めることを決意。順大大学院の門をたたいた。

 社会人選抜での入学のため、授業は基本的に夜。現在は12月の修士論文提出に向け、実験を重ねている。「窪田先生(窪田敦之・先任准教授)と話していると『野球界って変なのかな?』って疑問が生まれてくるんです。『なんで?』って聞かれた時に、答えられないことが結構多くあって。気づきがたくさんありますね」

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 引退後に指導論やコーチング論を学ぶアスリートは一定数いるが、スポーツ医学の世界に飛び込む選手はほとんどいない。故障に苦しんだ自身の経験も踏まえ、石川さんは「けがをしてからどうこうより、けがをしないことを目指すような、そういう勉強がしたかった」と振り返る。

 例えば「球数制限」という概念はルール化した。一方で、バットを振る回数の制限はない。指導者が指示すれば、何千回、何万回と振ることができるし、選手の立場に立てば「振らないといけない」。

 エビデンスのない根性論により、選手の成長機会が奪われている現状があるのではないか―。石川さんは「小中学生、高校生の体を守ることはすごく大事。勝利至上主義の考え方により、犠牲になっている子供が多くいるのが現状です」と力を込める。

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 異色のセカンドキャリアを歩む石川さん。「野球への携わり方はいろいろあると思うので。伝える側としていろいろなチャレンジをしていきたい」と今後を見据える。

 「僕の根底にある思いは『休めば治るけがなのに、休ませない文化はよくないのでは』というもの。プロなら自己管理が甘かったで終わることかもしれない。でも学生の野球は違う。未来がある選手たちをけがから守らないといけないと思っています」

 ◆石川 駿(いしかわ・しゅん)1990年5月26日、滋賀・草津市生まれ。35歳。北大津高から明大、JX―ENEOSを経て、14年にドラフト4位で中日に入団。20年シーズン限りでの引退後、21~23年に東京柔道整復専門学校で柔道整復師の国家資格を取得、24年から順天堂大大学院スポーツ健康科学部に在籍。

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