球団初となるワールドシリーズ(WS)連覇を達成したドジャースが2日(日本時間3日)、敵地トロントからチャーター機で本拠ロサンゼルスへ戻った。大谷翔平投手(31)にとって、23年9月の右肘手術から二刀流復活という大きな意味を持った1年を、最高の形で締めくくった。

6月、公式戦で“リハビリ登板”を重ねる異例の形で投手復帰の道を歩み始め、そこから二刀流で頂点まで駆け上がった。その足跡を「連続世界一 二刀流新伝説」と題して全3回で掲載する。第1回は「投手・大谷」の進化。(取材・構成=中村 晃大、村山 みち)

 単に復帰するだけではなく、進化して戻ることを見据えていた。2月。キャンプ地のアリゾナで大谷は「ノーワインドアップ」の新投法を披露した。右腕の使い方も以前と比べてコンパクトになっていた。右肘の手術前は常時セットポジションから投げていたため、関係者は一様に目を丸くした。マクギネス投手コーチ補佐は思わず尋ねた。「どういう意図があるのか説明してもらえるか?」。大谷は「こっちの方がマウンドの傾斜から得られるエネルギーをつかめて、より快適に感じられます」と答えた。

 今の「投手・大谷」は腕を広げて体重移動していく際、体を右肩の方に大きく傾ける。

9月には同コーチ補佐も「あまりにも体が後ろに残りすぎてしまうのではないか」と確認するほどだった。しかし、本人はこの動作を好んでいた。「もし彼の中での目的がより縦方向の動きを強めることなら、制球の観点から理にかなっている」と同コーチ補佐。さらに新フォームを独自の観点で解説した。

 「人によっては(軸回転が)縦向きより横向きの動きの方が球速が出やすいと言うけど、彼は出力を上げた上でストライクゾーンに収めるためのポイントは縦向きの方が広いと気付いたのだろう。(体を傾ける)あの動作をすることによって縦方向の感覚を養い、全ての球種で同じようなポイントを維持できるようになったんだと思う」

 実際、エンゼルス時代は球種によって腕の角度などが変わっていたようだが、現在は一定のポジションを保てているという。数字上でも、直球の平均球速が23年の96・8マイル(約155・8キロ)から98・4マイル(約158・4キロ)に上昇するなど随所に進化を見せる。

 縦回転の動きが強いのはドジャース投手陣の共通点なのかもしれない。マクギネス投手コーチ補佐によると、スネル、グラスノーらも同タイプ。今季限りで引退するカーショーも同じだという。さらに大谷とカーショーにはもう一つの共通点があるといい「競争心とメンタルが異常なほどに強い。彼らは周囲にいる全員(の力)を引き上げ、登板する度にチームに勝利するチャンスを与える」。

目には見えない“存在感”もレジェンドの特異性だ。

 リハビリを兼ねた二刀流「復活」の年が終わり、来季は「完全復活」のシーズンになる。まだ伸びしろはあるのか―。マクギネス投手コーチ補佐は深くうなずいた。「彼用に新しい評価基準方法を作らなければならない。今季、彼は私たちが想定していたことを完璧にこなした。人間には不可能だと思っていた壁を突破し、さらに10倍のスケールでやってのけた。100点満点だけど、彼の能力に限界を設けたくない」。26年のWS3連覇、WBC2連覇に向け、打者としても今季はさらに飛躍した。

 ◆投球の縦回転と横回転 一般的に軸足(右投手なら右足)側の骨盤が踏み出す足(右投手なら左足)に覆いかぶさるように腰を回す投げ方が縦回転、バッティング時のように水平気味に腰を回す投げ方が横回転とされる。

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