松本幸四郎(52)が歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」(26日千秋楽)夜の部「歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな」で笑いを巻き起こしている。三谷幸喜氏(64)が作・演出を手掛ける三谷かぶき第2弾を「ど真ん中の歌舞伎です」と説明。

「菅原伝授手習鑑」の菅丞相など古典の大役にも挑んだ今年を「目指すべき場所は、はるか遠くにあると実感した」と振り返った。(有野 博幸)

 歌舞伎座が笑いにあふれている。狂言作者の花桐冬五郎を演じる幸四郎は「どれだけ必死に2時間ノンストップで走り続けられるか。叫んで、怒って、跳んで、はねて、転ぶ。笑ってもらうために体を痛めつけています」。あえて面白いことをするのでなく、必死さが結果的に大きな笑いにつながっている。

 冬五郎は、無責任な座元(片岡愛之助)、看板役者(中村獅童)、頭取(中村鴈治郎)に振り回されながら、舞台の進行を担う。脚本段階で三谷氏から「おどおどした狂言作者と、冷静だけど仕事ができない狂言作者、どっちがいい?」と聞かれ「おどおどした方で」とリクエスト。稽古の途中に「女形の元役者」という設定が加わり、普段は冷静なのに興奮すると「何するのよ!」と女性言葉で声を荒らげるキャラクターが確立した。

 稽古期間は歌舞伎では長めの1か月弱で「ど真ん中の歌舞伎です」と胸を張る。その真意は「三谷さんの芝居を歌舞伎役者が歌舞伎座でやる。それも、今日のお客様に楽しんでもらうために全力を尽くす。

これこそが歌舞伎」と説明した。あらゆる場面に歌舞伎の小ネタが仕込まれており「新作でも、古典歌舞伎の表現方法を反射的に出せないといけない」。それができるのが、歌舞伎俳優の強みだ。

 物語の舞台は伊勢の芝居小屋。「義経千本桜」の舞台裏で起きるトラブルを乗り越えようと奮闘する演劇人たちの群像劇だ。終盤には平井堅(53)が2005年にリリースした「POP STAR」の邦楽バージョンに合わせて舞台上の全員が踊る大団円に。幸四郎は振り付けを担当。次々とトラブルに見舞われながらも、楽しく踊って一件落着という展開も実に歌舞伎的だ。

 実際の役者人生でも、予期せぬトラブルは珍しくない。2月には博多座の「朧の森に棲む鬼」で舞台装置の不具合があり、公演中止も懸念された。「どうすれば再開できるかを必死に考えました。トラブルを逆手に取って、普段できないことができるんじゃないかと前向きに切り替えることも大事」。

これこそが、題名にもある「ショウ・マスト・ゴー・オン(幕を開けたら、最後までやり抜く)」の精神だ。

 今年は1月の「大富豪同心」で演出に初挑戦し、4月の「木挽町のあだ討ち」、7月の「鬼平犯科帳」、8月の「火の鳥」「野田版 研辰の討たれ」など次々と話題作に出演。獅子奮迅の活躍ぶりだ。充実の日々を経て「目指すべき場所は、はるか遠くにある」と実感し、さらなる高みを見据える。

 9月には「菅原―」の菅丞相に初役で挑んだ。この役を当たり役にする片岡仁左衛門(81)から「演じようと思ったらだめ」と教わり「動きが少なくて、セリフも少ない。自分の体を通して菅丞相を見ていただく。役を演じる感覚が変わりました」。価値観が変わるほどの衝撃。52歳となっても日々、新たな発見で心を震わせ、それを意欲の原動力として走り続ける。

 〇…幸四郎は熱烈なG党。V奪回を目指す来季の巨人に「メジャーから日本に復帰する前田健太さんを獲得して、坂本(勇人)さん、田中(将大)さんと同級生トリオで頑張ってほしい」とエール。

メジャー移籍が濃厚な岡本和真内野手(29)の後継者として「長打力が魅力のリチャードさんに覚醒してもらいたい」とブレイクを期待した。

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