歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」(26日千秋楽)

 7代目尾上菊五郎、松本白鸚が圧倒的な存在感で、渾身(こんしん)の芝居を見せている。片岡仁左衛門(81)が歌舞伎俳優では11人目の文化勲章を受章したばかりだが、菊五郎は9人目、白鸚が10人目の受章者である。

現在、最高の立役が顔見世で姿を見せたのだ。

 菊五郎は昼の新作舞踊「鳥獣戯画絵巻」で絵巻の作者・鳥羽僧正。出番は2度。幕開き、純白の衣装、赤い羽織、総髪で座っている。セリフはなく、すぐ立ち上がってまた座る。それだけで輝くオーラを発するのだ。2度目は舞台中央で笑顔の幕切れ。出番は都合5分もないが、音羽屋の大旦那のオーラは一向に衰えていない。

 白鸚は三谷幸喜作・演出の新作・三谷かぶき「歌舞伎絶対続魂・幕を閉めるな」の叶琴左衛門。劇中劇「義経千本桜・川連法眼館の場」で法眼を演じるはずの役者だが、出番の割愛を楽屋で孫の市川染五郎から告げられる。「新しく入った見習いさんだね」など一言三言、およそ3分。周りがドタバタ劇で笑わせる中、この一場面だけだが、正統芝居は大拍手で迎えられた。

 高麗屋の大旦那もその声量といい健在。大看板の両優の舞台姿と出会うだけで、嬉(うれ)しい。江戸期の顔見世は向こう1年間に出演する役者の顔ぶれをお披露目する興行だった。

 ともに昭和17年生まれの83歳。新作で初役。命を削ってでも歌舞伎を守る、最後までやり抜く―。来年も両優の出演を待つばかりである。(演劇ジャーナリスト・大島幸久)

編集部おすすめ