8日に肺炎のため死去した俳優・仲代達矢さん(享年92)は70年以上にわたる役者人生を重ねながらも、揺るぎない「普通の感覚」を持ち続ける常識人として知られた。また、仲代さんが主宰した俳優養成所・無名塾の“弟子”たちは訃(ふ)報を受け、悲しみのコメントを寄せた。

 仲代さんは1975年に妻の隆巴(りゅう・ともえ)さん(本名・宮崎恭子、享年65)と夫婦で東京・世田谷区に俳優養成所「無名塾」を設立。「有名な役者も無名に返って修業する場があるべき」という思いが原点だった。最初は新人養成は一部だったが、役所広司(69)、益岡徹(69)、若村麻由美(58)、赤間麻里子(55)、滝藤賢一(49)らが巣立っていった。

 無名塾は今年で設立50年。授業料がかからないこともあり、かつては100倍近いと言われた狭き門で「演劇界の東大」との異名も。若村はこの日、「私にとって恩師、仲代達矢さんは演劇の父です。奥様の宮崎恭子さんと共に時間と情熱をかけて育ててくださったことに感謝しかありません」との思いをつづり、別れを惜しんだ。

 若村は今年5~6月に石川県の能登演劇堂で仲代さんが主演した舞台「肝っ玉おっ母と子供たち」を観劇。仲代さんの熱演を目の当たりにして「92歳とは思えぬ強い母性と生命力あふれる圧巻のおっ母役が本当に素晴らしかったです。千秋楽の日、『見に来てくれてありがとう。また一緒にやりましょう!』と未来に向けた言葉を頂いたのが最後となりました」と明かした。

 仲代さんからは「役者は、棺(ひつぎ)の蓋が閉まるまで生涯修業です」と教わったという。

天国の恩師には「生きざまに『ブラボー!』の大喝采を贈り続けます。カーテンコールを夢に見て、心よりのご冥(めい)福をお祈りいたします」と惜別の思いを込めた。

 益岡は「ここ数年、いつかこの日が来ることを心しておりました」と告白。この日、弔問して「役者を目指して以来45年、師匠として、また心の拠(よ)り所としてあり続けてくれました。棺の中のお顔を見て、もう一度親を亡くしたように感じました。何よりたくさんの一緒に過ごした時間、年月…。茫(ぼう)然として涙が流れていました。仲代さん、ありがとうございました」と感謝の思いをつづった。

 役所は突然の訃報にショックを受け、この日はコメントしなかった。役所の所属事務所は「本日、撮影の仕事をしております。突然のことですので、コメントは差し控えさせていただきます」と答えた。

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