シンガー・ソングライターの松任谷由実が17日、東京・府中の森芸術劇場ドリームホールから約1年1か月かけて日本各地をめぐる全国ホールツアー(全72公演)をスタートさせた。

 18日に発売される最新アルバム「Wormhole/Yumi AraI」の楽曲を中心に構成された公演。

同アルバムは「AIと人間の共生」を掲げ制作された渾身の一枚。「Chrono Recording System(クロノレコーディングシステム)」という独自の制作手法を導入し、過去の声(荒井由実)、現在の声(松任谷由実)に至るまでのボーカルトラックを音声合成ソフト「Synthesizer V」にラーニングさせ、第3の声「Yumi AraI」を生成。そこに今の声をコラージュさせた仕上がりになっている。

 同アルバムを引っさげての公演ということで、どのようなステージングがなされるかに注目が集まっていたが、ユーミンが選んだのは「リアル」だった。MCでは「今度のアルバムは、AIにより私の昔の声をラーニングし、その声と今の私をコラージュしながら作りました。残念ながら、ライブでそれを表現するには、今のテクノロジーでは間に合いません。だから今回AIはなし」と説明。コーラスや自らの声を駆使し、ライブならではの“人力”での表現で圧倒した。

 アルバムの制作過程でユーミンの音域は約1オクターブ半をカバーするほどに成長。「岩礁のきらめき」ではサビの高音部は自分の声で歌い「天までとどけ」では、アルバムではAIと生歌が担う部分をコーラスと重ねながら歌い上げた。

 公演は、ダブルアンコールも含む27曲を披露。アンコールでは「時間の中で変わらないということは変わり続けるということ。

肉体は変わっても、私はユーミンのままであり続けます」と宣言。「VRでも何でもやろうと思うけれど、やっぱりライブの、この会場のこの瞬間は最高! 毎回思うけどこの瞬間を宝物のようにいつまでも記憶に留めておきたい」と「いま」を共有する感動に浸っていた。

 〇…「Wormhole/Yumi AraI」は全12曲が収録。異なる時空や多次元をつなぐトンネル=ワームホールをくぐり、現実と想像、過去と未来、そして異なる“自分自身”をつなぐという意味を内包する。最先端の技術と向き合う一方、人の心を動かすのは人間であるということに気づいたといい「強く、生きよ!」というメッセージを込めている。

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