歌舞伎俳優の尾上松緑がこのほど、都内でスポーツ報知などの取材に応じ、いずれも大役を勤めた三大名作の通し狂言について振り返り、長男の尾上左近についても語った。

 今年は3月の「仮名手本忠臣蔵」で高師直と大星由良之助、9月の「菅原伝授手習鑑」で梅王丸と松王丸、10月の「義経千本桜」でいがみの権太を演じた。

高師直については「市川左團次の兄さんが亡くなって、おそらく僕に来るだろうなと思っていました」。その一方で由良之助は「まさか自分に来るとは思わなかった。立役の頂点の役だと思っていたので、恐ろしさ、怖さが先に立ちましたね」とオファーを受けた際の心境を明かした。

 切腹を命じられた主君・判官の元に駆けつける四段目の由良之助。劇場内はピリッと緊迫感に包まれる。「この役は自分がやったから、ほかの人には渡したくないと思う歌舞伎役者がいる。自分には、そういう意識がないと思っていたけど、由良之助は、またやりたい、ほかの人に渡したくないと思った。自分にもこういう気持ちがあるんだな、それだけ重い役なんだな、と思いました」と語った。

 今回の由良之助は片岡仁左衛門に教わって演じた。「今回のやり方で、ほぼ腑(ふ)に落ちているので、次もガラッと変えることはないと思います。仁左衛門のお兄さんに教わったことをベースに、祖父(2代目松緑)のやり方を加えるか、どうかでしょうね」

 息子の左近は三大名作で大星力弥、苅屋姫、桜丸、娘お里、主馬小金吾、静御前など女形と前髪の立役を中心に大役を勤め、著しい成長を見せた。松緑は「僕がやる役とは違うので、一切教えてない。

彼は彼なりにやっている。見放すわけではなく、彼は彼。19歳ですから。一人の役者として考えがあるでしょう。彼の意思を尊重しています。分からないことがあれば、聞いてくるでしょう。聞かれたら答える。いつでも助け船を出します」

 左近は来年2月に「エヴァ歌舞伎」に出演することも発表されている。これについても松緑は「松竹さんから(オファーが)来ているけど、お前と松竹さんで話して決めな」と判断を任せたという。松竹の担当者から「左近さん、出るらしいです」と聞かされ、「彼(左近)は僕には直接、意見を言いにくいみたい(笑い)。今は通訳してくれる人が周りにいるから、いいんじゃないですか」と父親の顔を見せた。(有野 博幸)

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