宝塚歌劇の元月組トップスター、剣幸(つるぎ・みゆき)は、東京芸術劇場シアターイーストで23日開幕の舞台「飛び立つ前に」(フロリアン・ゼレール作、ラディスラス・ショラー演出、東京の後、全国公演)に出演する。

 橋爪功、若村麻由美と並ぶ演技派キャストの名前を見るだけでも芝居好きには観劇意欲をそそられるだろう。

男性作家(橋爪)とその妻(若村)。子どもが2人いる結婚50年の老夫婦の家庭にナゾを与える女性を演じる。難役をうかがわせる。「確かにとても手ごわい役です。家族の普通の会話劇ではないので。稽古場で気づくと汗をかいている。ふだんの数倍の力を使わないとできない役なのでしょう」

 ベテラン橋爪とは意外にも初顔合わせ。「すごい方。演じている、と全く思わせることなく、役として存在される。芝居の迫力に圧倒されて。今まで見たことのない方ですね」。人徳があり、在団中から男役の域を超えた演技巧者で知られた。

その人が先輩役者の演技に衝撃を受けたことを自然に言葉にする。この姿からも剣の人柄が分かる。

 昨年は芸能生活50周年だった。「正直なところ、私自身に何周年という数字的な意識はさほどなくて」。あくまで通過点という受け止め方をする一方、「これだけの年月、ずっと見てくださった方々がいる。よくここまで。何より、ありがたいという思い伝えるための周年でした」

 いまも宝塚時代に学んで得たことに感謝する。特に音楽学校での2年間。みっちりあらゆる芸事を学ぶ。「ふだん使わない楽器を演奏する役があったとしても、宝塚で教わった引き出しがあるのとないのでは全く違いますからね」。自身が芝居を愛するようになったのは、歌劇団で「皆でひとつの物をつくり上げていく醍醐(だいご)味を知ったからです」。卓越した演技力で、これからも役の深淵(しんえん)を追い求め続ける。

12月21日まで。(内野 小百美)

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