号泣必至の舞台「くちづけ」にラスト出演の金田明夫「５年前のリベンジを持ちつつお客さんを楽しませたい」

　俳優で脚本家の宅間孝行が主宰する演劇プロジェクト「タクフェス」の舞台「くちづけ」が２４日から全国６か所で上演される。２０１０年に初演され、１３年には映画化された同プロジェクトでは屈指の人気を誇る同作に、ヒロイン・マコの父親・愛情いっぽん役で宅間と共に初演から出演を続けるのが俳優の金田明夫だ。

　知的障害者の自立支援のためのグループホーム「ひまわり荘」を舞台に、そこで暮らすうーやん（宅間）と新たにメンバーに加わったマコ（石田亜佑美）、彼らを取り巻く人たちの姿を描く「くちづけ」。初演以降は５年ごとに上演され、今回が４度目となる。初演時は５５歳だった金田も、７１歳になった。

　「初演時の役の設定が６０歳。前回（２０年）の上演の前にも、宅間と話をして『あと１回（今回で終わり）かな』と、２人の間では最後のつもりでいたんです」。ただ、当時は新型コロナウイルスが感染拡大の真っ最中で「お客さんの数も制限されて、忸怩（じくじ）たる思いはありました」。それから５年が経過。「『あの時の寂しさを感じたままで、終わるわけにはいかない』という思いはありましたね。リベンジという気持ちを持ちつつ、”ファイナルいっぽん”を演じたいと思います」

　テレビドラマや映画の人気シリーズで同じ役を１５年演じることは珍しくはないかもしれないが、５年に一度の舞台を１５年となると、あまり例がない。「こんな役には、なかなか巡り合えないですよね。もちろん脚本が同じなので、それを踏襲していくということはあるんですが、自分が（上演の間の期間に）どう生きてきたかという積み重ねが出てくる。

　宅間との出会いは「くちづけ」初演の数年前。宅間が脚本、演出を務めたドラマ「歌姫」を偶然見た後にＮＨＫ連続テレビ小説「つばさ」（０９年）で一緒になり、金田の方から声をかけて意気投合したという。「その後に（宅間の舞台の）『流れ星』を見に行って『いい脚本を書くな…』と思っていたら出演の声がかかった。それが『くちづけ』だったんですね。当時『あっくん（金田）の当て書きだから』と言われて、幸せでした」と懐かしそうに振り返った。

　ただ、脚本を読んだ時には不安もあったという。「知的障害者をテーマにした作品ということで、ちょっと禁じ手というかタブーに斬り込んでいくということは感じました。結構怖かったことを覚えています。でも、そこは宅間の勇気というか、差別感ではなく、ど真ん中に入り込んでいた。だから、周囲からは『よくやってくれた』という感想があったんだと思います」

　金田自身は、現在も劇団「演劇集団円」に所属。「くちづけ」に出演するまでは、舞台では自分の劇団以外の作品に出たことがほとんど無かった。「新劇というのは、『自分たちが今、この作品を演じていることが重要』と、作品が主体となってしまうことがある。

　一方で、宅間の作品は「『お客さんに楽しんで帰ってほしい』というところにエネルギーを費やしている」と感じた。「そこがいいと思いますね。キャストがみんな生き生きとしているところも好きですし、自分も楽しませないと、という気持ちになります」

　今回、１月の札幌公演までを終えると、初演からの通算上演回数が１４９回となる。「あと一つで１５０回なんだけどね。今回で最後だし、もう１回くらい増やしてキリのいい回数にしたいという気持ちもあるけど、それ（１４９回）もいいかな…と思ってます」。最後の１回まで客席を笑わせ、そして泣かせて「愛情いっぽん」から卒業するつもりだ。

　◆舞台「くちづけ」　「ひまわり荘」は知的障害者たちの自立を支援するグループホーム。ある日、かつて大ヒット作品を一度だけ世に送り出したことのある漫画家・愛情いっぽんが障害を持つ娘・マコを連れてやって来た。ひまわり荘で住み込みで働くことになった愛情いっぽんは、マコがホームになじむか不安だったが、ひときわ明るく元気なうーやんに心を開き安心する。その後、うーやんとマコは、マコの誕生日であるクリスマスに結婚をしようと約束するが…。

　◆タクフェス第１３弾「くちづけ」公演日程

　▼１１月２４日　富山・新川文化ホール

　▼２８日～１２月７日　東京・サンシャイン劇場

　▼１２～１４日　名古屋・アマノ芸術創造センター名古屋

　▼１８～２１日　大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

　▼２７日　福岡・ＳＡＷＡＲＡＰＩＡ

　▼２６年１月８日　札幌・カナモトホール