◆天皇杯 ▽決勝 町田3―1神戸(22日・国立)

 町田が神戸を3―1で破り、初優勝を果たした。FW藤尾翔太(24)の2得点もあり、J1昇格2季目で初の国内主要タイトルを獲得。

23年に青森山田高の監督から異例の転身を果たした黒田剛監督(55)が、堅守と勝利への執念を植え付けて栄冠へ導いた。優勝賞金は1億5000万円。来季のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)2の出場権も獲得した。神戸は2連覇を逃した。

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 5月中旬の公開練習後。取材対応日ではなかったが、黒田監督が記者陣の前で足を止めた。見るからに顔色が悪く、足元はふらついていた。自身初の3連敗など、直近8戦で1勝のみの苦しい状況がこたえているようだった。だが、打ち明けたいことがあったのか、1時間ほど自身の状態を明かした。

 めまい、手足のしびれ、吐き気がひどいこと。息切れと動悸(どうき)で呼吸が苦しく、夜も夢でうなされて寝不足なこと。病院にも通院し、自律神経を安定させる薬を服用している話だった。

実際に、ある試合の後は放心状態で、私の質問にも要領を得ない回答をして、報道陣も困惑するほどだった。

 「繊細で不安症」。よく黒田監督は自身をこう表現する。担当になるまでは想像できなかったが、この1年の取材で合点がいった。球際、無失点など細部へのこだわり―。日頃から重視していることはどれも、敗北への不安を少しでも解消するためのものだ。

 青森山田高監督として28年間で3度の全国選手権制覇を成し遂げ、全国屈指の名門校に育て上げた。数々の勝利を手にしながら、今でも1つの白星に心から喜び、黒星に体調を崩すほど落胆する。時には批判されることもある勝負へのあくなき執念が、クラブの悲願達成へと導いた。(浅岡 諒祐)

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