スポーツ報知では、関東大学サッカーリーグの魅力を伝える企画を随時掲載する。第9回は桐蔭横浜大のFW肥田野蓮治(4年、21)がインタビューに応じた。

今年1月、来季のJ1浦和加入内定が発表された左利きのストライカーは、数々の苦難を乗り越えて、名門クラブからのオファーを得た。今も燃え上がる反骨心をばねに、プロの世界へ殴り込む。(取材・構成=浅岡 諒祐)

 高まる鼓動を抑えきれずにいる。頭は冷静に、しかし心は熱く燃やしながら、来季の浦和入団の時を心待ちにした。

 「(今季は浦和の)特別指定で(J1リーグに)出られる権利があったが、(浦和の試合メンバーに入れず)結局居残りメンバーで、すごい悔しさがあった。来年は、絶対にその思いはしたくない。高望みはせず、地に足を着けて、今やるべきことをやりたい」

 反骨心をばねに駆け上がってきた。FC東京のユースに上がれず、「自分の長所が生きるところでやりたい」と関東第一への進学を決断。入学時、170センチに満たなかった身長は高校2年時に180センチ近くまで伸び、プレーの幅が広がった。3年時はエース番号10もつけたが、己の未熟さを痛感した。

 「自分がプロに行けるとは全く思っていなかった。最後はコロナ(の部内感染)で(選手権の準決勝前に)辞退しましたし、その前のベスト8で静岡学園と対戦した時、自分はこんなものなんだ、平凡な選手だなと思った。

何も足りないことを突きつけられた」

 MF笠井佳祐(現・新潟)ら歴代の関東第一の10番が桐蔭横浜大に進んでいたため、肥田野も入学を希望したが、高3夏の練習参加で不合格を突きつけられた。「自分だけ行かないのは悔しい」と“再受験”を直談判し、2度目で合格を勝ち取った。だが、迎えた4月、選手権で負った左膝半月板のけがで半年の離脱となった。

 「最初はもう絶望。全国から有名な選手しか集まっていない中、自分は一回落とされ、プラス半年間サッカーもできない状態。最初は練習をやりたくない、このメンバーの中では(出場)できなさそうだなと思った」

 転機は2年の時だった。関東社会人リーグに出場する“Bチーム”で控えだった肥田野は「たまたま」先発した試合でゴールを奪った。大学入学後から鍛え始めたフィジカルの強さも発揮し、秋にはトップチームに昇格。Jクラブの練習にもトレーニングパートナーとして派遣されるようになった。派遣先の浦和で元日本代表DF酒井宏樹も参加した紅白戦で2得点を奪い、プロへの扉を開いた。夢をかなえたが、そこからも戦いが待っていた。

 「もともと全く無名だったので、急に注目されるのはすごく違和感があった。

周りの全部の目が自分を否定するような、すごい厳しい目で見られているような感覚が、親からも感じた。どのプレーでもミスは絶対に許されない、完璧な選手像を自分で勝手に作っていた感じもありました」

 夏までは苦悩したが、9月以降は「思いっきりの良さ、がむしゃらにゴールに向かう姿を評価してもらった」と思い出し、積極性を取り戻した。今は迷いはない。自身の原動力を胸に刻み、プロでの活躍を誓う。

 「限られた選手しかレッズでプレーできないし、アジア一のチームと思っている。手放すわけにはいかないし、不安よりも希望が強い。反骨心を持った時の方が持ち味を出せるので、そういう思いでやりたい」

 ◆関東1部卒業生J1内定選手 昨年度から9人減少は秋春制移行など転換点の影響

 25年度の関東1部の卒業生で、Jリーグ内定選手は31人。うちJ1は8人だ。昨年度は明大だけで6人のJ1内定選手を出し、J内定の54人のうち17人がJ1クラブに羽ばたいたことを考えると、やや少ない。

 ただ、天皇杯で東洋大が16強に躍進したことからも分かるように、能力は高い。新潟、柏とJ1を連破した立役者のDF山之内佑成(柏内定)はいち早くプロの舞台でデビューし、ルヴァン杯決勝で先発出場も果たした。全日本大学選抜はイタリア遠征で、セリエAフィオレンティナから金星。

遠征先では元日本代表監督のザッケローニ氏(72)からレベルの高さを称賛されたと、流通経大の中野雄二監督(63)は明かす。

 来季からJリーグは秋春制に移行し、U―21リーグも新たに創設される。転換点になるシーズンであることも内定者数に影響しているようで、あるJ1のスカウトも「みんな手探り」と話した。(浅岡 諒祐)

 【取材後記】 肥田野は千葉・習志野の実家から横浜市の大学に、2時間以上をかけて通学している。「電車でいろいろと考えたりするのが好き」と一人で過ごせる時間を楽しんでいるそうだ。「発想したり、自分で考えるのが好き」という。また、外出が制限されたコロナ禍だった高校2年時は、絵の具で風景画なども描いていた。その創造力はピッチだけではなく、取材でも質問に対する言語化能力に驚かされた。

 現在、参考にしている選手は元ブラジル代表のFWロナウド氏。国立競技場の工事に携わった父の勧めで見始め「ダイナミックでかっこいい。身長も同じくらいで理想ですね」と語る。ロマンあふれるレフティーが、来季J1で躍動する姿が楽しみだ。

(大学サッカー担当・浅岡 諒祐)

 ◆肥田野 蓮治(ひだの・れんじ)2003年12月1日、千葉・習志野市出身。21歳。小学2年でサッカーを始める。東習志野FC、FC東京U―15深川を経て、19年に関東第一高に進学。高校2、3年時には全国高校選手権に出場。22年に桐蔭横浜大に入学。25年1月に26年シーズンからの浦和入団内定が発表。181センチ、75キロ。家族は父、母、弟。左利き。

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