◆プロボクシング ▽WBC世界バンタム級(53・5キロ以下)王座決定戦12回戦 〇同級2位・井上拓真(判定)同級1位・那須川天心●(24日、トヨタアリーナ東京)

 WBC世界同級2位・井上拓真(29)=大橋=が同級1位・那須川天心(27)=帝拳=に勝利。新王者となった。

中盤から攻勢を強め、距離を詰めて的確にパンチを当てていった。8回終了時点で公開された採点でジャッジ2人が拓真を支持。最終ラウンドまで戦い抜くと、勝利を確信してポストに上り、アピールした。

 リング上では「ありがとうございます!戻ってきました!」と叫び「天心選手相手だからこそ、自分も追い込めて仕上げられた。強かったし、ありがとうございました。相手が天心選手だから、だからこそ、ここまで死ぬ気でやってこれたと思います。ここまで盛り上がる試合ができたっていうのも、天心選手のおかげでもある」と感謝を口にした。

 再起戦に臨むにあたり、支えになったのはやはり家族の存在。「自分が去年負けてたから、お父さんも諦めずにここまで追い込んでくれて、結果を残せたことに、ちょっとでも恩返しできたかなと思ってます。(勝因は)練習を1つも抜かずに、あとは天心選手に勝つんだっていう気持ちでここまできた。それだけです。自分が勝つって信じてくれたファンの皆さま、ありがとうございました」と父・真吾トレーナー、そしてファンに感謝した。

 昨年10月、堤聖也(29)=角海老宝石=に判定負けしWBA王座を失ってから1年1か月ぶりの再起戦を白星で飾り、みたび世界の頂点に立った。キックボクシングで42戦無敗を誇り、2023年4月にプロボクシング転向後に続けていた天心の連勝は7でストップ。キック、総合格闘技なども含め、公式戦55戦目で初黒星となった。

 「今までで一番の仕上がり。完璧に仕上がりました」。自信を持って臨んだリングで拓真が躍動した。「メチャクチャ仕上がりがいい」と太鼓判を押して送り出した兄の世界4団体スーパーバンタム級統一王者・井上尚弥(大橋)がリングサイドからアドバイスを送り、背中を押した。「ベルトが欲しいというより、天心に初黒星をつけたい」。キック時代に“神童”と呼ばれ、今回がボクシング世界初挑戦だった天心を気迫で上回った。

 拓真に負けず、天心戦に燃えていたのが尚弥だ。21日の記者会見、23日の前日計量にも姿を見せ、弟をサポート。自身は12月27日に、サウジアラビア・リヤドでアラン・ピカソ(メキシコ)との防衛戦を控え、試合1か月前に他のイベントに顔を出すのは珍しい。

父の真吾トレーナー(54)によると、練習でも気づいた時には的確なアドバイスを送っていたという。「小さい時からそうですけど、相手の癖だったり、細かいアドバイスだったり、昔からくれる。ずっと心強い存在ですね」と再び兄弟世界王者を実現させた弟は兄への感謝を忘れない。

 WBCのベルトは世界暫定王者だった19年11月、正規王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)との団体内統一戦で判定負けで逃した。ついに緑のベルトを取り戻し、この試合のために特注された「サムライベルト」も手にした。来年5月、兄は、スーパーバンタム級に転向した中谷と東京ドームでの防衛戦を戦うつもり。拓真も世界王者として、その舞台で“競演”を目指す。拓真は、まずはサウジで尚弥が快勝するのを現地で見届けるつもりだ。

 戦績は拓真が21勝(5KO)2敗、天心が7勝(2KO)1敗。

◆井上 拓真(いのうえ・たくま)1995年12月26日、神奈川・座間市生まれ。29歳。綾瀬西高では高校総体など2冠。

2013年12月プロデビュー。15年7月、東洋太平洋スーパーフライ級王座獲得。18年12月、WBC世界バンタム級暫定王座獲得。21年1月に東洋太平洋同級王座、同年11月にWBOアジアパシフィック同級王座、22年6月に日本同級王座を獲得。23年4月、WBA世界バンタム級王座獲得。24年10月、3度目の防衛戦で堤聖也(角海老宝石)に敗れ王座陥落。身長163センチの右ボクサーファイター。

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