◆プロボクシング ▽WBC世界バンタム級(53・5キロ以下)王座決定戦12回戦 〇同級2位・井上拓真(判定)同級1位・那須川天心●(24日、トヨタアリーナ東京)

 無敗のキックボクシング王者から、ボクシング転向8戦目で世界王座に初挑戦したWBC世界バンタム級1位・那須川天心(27)=帝拳=は、王座決定戦で同級2位・井上拓真(29)=大橋=に判定の末、0―3で敗れ、王座獲得はならなかった。格闘家人生を集約した「シン・ボクシング」を引っ提げて挑んだが、拓真の技巧に屈した。

1年1か月ぶりに王座に返り咲いた拓真は、3度目のバンタム級王座獲得となった。

 天心の不敗神話が、ついに終焉(えん)の時を迎えた。試合終了のゴング。雄たけびを上げる拓真に背を向けるように、天心は赤コーナーに頭を押しつけてうなだれた。リング四方に正座してお辞儀し、リングを下りた。プロ公式戦55戦目にして輝かしい戦歴に初めて黒星が刻まれたが、試合後は晴れやかな表情で会見場に現れた。「ここから始まるな、みたいな感覚になりました。人生おもろいな、って。またさらにボクシングが好きになった。後悔はないです」。ありったけの前向きな言葉を並べた。

 出だしは上々だった。

初回は前足(右足)で距離を制御し、終了間際に左ストレートを好打。腕をくるくる回して、ジャンプするパフォーマンスも見せるなど天心ペースだった。2回には右フックで拓真の膝を揺らした。しかし、3回以降は距離を詰められ、接近戦でショートを被弾。終盤の意を決した左ストレートも、むなしく空を切った。12回を戦い切り「効いたパンチはない。世界戦って12ラウンドやって傷だらけで、というイメージだったのに。傷もないし、ちょっと傷つけてくれた方が良かったのかな」と笑わせた。

 進退を問う質問には、「やめないよ」と即答した。「ダサイじゃないですか。負けてやめますって。やり続けるしかないですよ」と大きくうなずいた。

拓真にも「リベンジしますよ」と宣言。リング上で拓真と抱き合った際に「しっかり強くなって、もう一回挑戦するところまでいきます」と伝えたことを明かした。

 司会者から会見終了を告げられると、天心は「皆さんに最後」と切り出して言った。「たくさんの応援のおかげで自分がいる。初めて負けて悔しい気持ちもたくさんあるが、これを受け止めて、前を向いて堂々と生きていきます。また頑張ります!」。初めての負けが、「神童」をさらに強くする。那須川天心の「人生実験」、ここから新章が始まる。(勝田 成紀)

 ◆天心に聞く

 ―試合中に焦りは。

 「(8回終了後)ポイント差を聞いた時にありましたね。これどうしようかなみたいな、スパーリングの良くない時の動きになってしまっていた」

 ―拓真の印象は。

 「全体的に上手でしたね。

本当に勝ちにきていましたね。来るかなと思ったところで来ないし。『はじめの一歩』でもこういう展開があって、そうなったかと思った」

 ―リング上で正座してお辞儀をした。

 「応援してくれる人がいての格闘技。感謝を伝えるのは大事。結果では返すことはできなかったが、生きざまで見せることはできた」

 ―格闘技も含めてプロ公式戦初黒星を喫した。

 「無敗にこだわって生きてきたわけではない。もちろん負けは悔しいし、負けを受け止める器がある、とは言っていたが、正直悔しい。ただ、これも人生」

 ◆那須川 天心(なすかわ・てんしん)1998年8月18日、千葉・松戸市生まれ。27歳。5歳で極真空手を始め、小学5年でジュニア世界大会優勝。2014年、15歳でキックボクシングでプロデビュー。

15年にRISEバンタム級王座を獲得。16年からRIZINで総合格闘技に挑戦。キック42戦全勝(28KO)、総合格闘技4戦全勝、キック・総合ミックスルール1戦1勝の格闘技47戦全勝でプロボクシングに転向し、23年4月にデビュー。24年10月、WBOアジアパシフィック・バンタム級王座獲得。家族は両親、妹2人、弟。身長165センチの左ボクサーファイター。

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