無敗のキックボクシング王者から、ボクシング転向8戦目で世界王座に初挑戦したWBC世界バンタム級1位・那須川天心(27)=帝拳=は、王座決定戦で同級2位・井上拓真(29)=大橋=に判定の末、0―3で敗れ、王座獲得はならなかった。格闘家人生を集約した「シン・ボクシング」を引っ提げて挑んだが、拓真の技巧に屈した。

1年1か月ぶりに王座に返り咲いた拓真は、3度目のバンタム級王座獲得となった。本紙評論家で、元WBC世界同級王者・山中慎介氏(43)は勝敗を分けたポイントを指摘した。

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 拓真の勝因は前半4ラウンドに凝縮されている。予想した通りに1、2ラウンドは天心に遠い距離からジャブを打たれポイントを奪われたが、3ラウンドからは勇気を出し前に出て相手との距離を詰めたことが勝利につながった。1、2回とパンチを受けてみて「これからいける」と感じたのだろう。3、4回は前に出て天心を下がらせる展開に持ち込み、ポイントを奪い返し、形勢逆転した。

 拓真はこれで勢いづき、中盤、終盤とペースを崩さずに戦えた。そしてメンタル面。世界タイトルを失った昨年10月の堤聖也戦(判定負け)ではズルズルと下がるシーンが目についたが、今回は一切下がらず、逆にプレッシャーを与え続けた。「天心に負けない」という強い気持ちが随所に見て取れた。天心の8戦目に対し、拓真は23戦目。キャリアの差もあった思う。

 逆に天心にとって4回終了後の公開採点でのドローは誤算だったはずだ。1、2回は拓真との距離を保ちジャブを出しポイントを奪った。3回からは拓真が前に出てプレッシャーをかけてくると、ジリジリと後退し、ペースを乱した。先に手を出すのは拓真の方で、後手に回ってしまった。中盤になっても、なかなか流れを変えることはできなかった。

 リング上で戦う2人を見ていると、やはり拓真の方が、ボクシングの引き出しが多い印象を受けた。初の世界戦となる天心に対して、拓真は7戦目。接近した時の体の使い方、パンチの種類と、拓真の方が上手だった。キャリアの差はどうしようもない。これは、天心が今後実戦で身につけていくはずだ。

 天心はラスト4回の戦い方も、もったいなかった。8回終了後の公開採点で負けていることが分かったのだから、もっと連打で勝負をしていれば展開は変わったかもしれない。

ただ、ボクシングを本格的に始めてまだ3年にも満たない中で、よく世界挑戦の場にたどり着いたと思う。その成長ぶりには毎回驚かされた。わずかプロ8戦の27歳。まだまだ強くなると確信している。(元WBC世界バンタム級王者)

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