日本相撲協会は26日、福岡国際センターで大相撲初場所(来年1月11日初日・両国国技館)の番付編成会議と臨時理事会を開き、九州場所で初優勝した関脇・安青錦(21)=安治川=の大関昇進を満場一致で決めた。初土俵から所要14場所での昇進は、年6場所制となった1958年以降に初土俵を踏んだ力士で琴欧州(後の琴欧洲)の19場所を上回り、最速(付け出しを除く)。

安青錦は福岡・久留米市で昇進伝達式に臨み、口上では「さらに上を目指して」と欧州出身初の横綱への決意も込めた。

 普段どおりの、りりしい面持ちで、安青錦はその時を待った。午前10時12分、協会の使者、浅香山理事(元大関・魁皇)と大島審判委員(元関脇・旭天鵬)から昇進を伝えられた。ウクライナ出身初の大関となり、金びょうぶの前で一語一句を確かめるように口上を述べた。

 「大関の名に恥じぬよう、また、さらに上を目指して精進いたします」

 これまでの先輩大関には四字熟語を含めた口上が多くあったが、端的に表現。「もう一つ上の番付があるので目指していきたい思いが強い。自分らしく、シンプルに自分が完全に理解できる言葉で話したかった」と明かした。

 文言は24日夜、師匠の安治川親方(元関脇・安美錦)に相談して5分で決まった。弟子の隣で口上を聞いた師匠は「覚悟を決めて、さらに上を目指す。いい口上だと思った。さらに上を目指してやっていく覚悟ができた」と感慨を込めた。

 ウクライナの戦禍を逃れ、力士になる夢を抱いて日本にやってきた。

初土俵から2年余り。新たな歴史の扉を開くため、歩みを止めない。次なる目標は欧州出身で初の横綱だ。ブルガリアの琴欧洲ら過去3人の欧州出身大関はいたが、いずれも最高位には届かなかった。「自信はある。全部を強くしないといけない」と決意を示した。

 横綱審議委員会の昇進内規は「大関で2場所連続優勝か、それに準ずる成績」。来年1月の初場所で06年夏の白鵬(元横綱)以来の新大関Vとなれば、続く3月の春場所が綱取りとなる。大関在位2場所での横綱昇進は昭和以降では双葉山と照国のみ。師匠も「まだ完成していない」と語り、伸びしろは十分だ。

 伝達式会場の外には、安治川部屋が九州場所前に相撲大会を行う水天宮保育園の園児約60人が集結。「祝大関昇進 安青錦関 祝優勝 おめでとうございます」と書かれた横断幕で祝福を受け、青い瞳の表情がほころんだ。

黄色く色づいたイチョウの木を背景に、部屋の力士がつくった騎馬に乗った。「(大関に)上がった瞬間は喜びがあるが、ずっと喜んでいたらそれで終わってしまう。次のことを考えて、しっかりやっていきたい。プレッシャーは当たり前のものと思っている」。角界の未来を担う21歳の門出は華やかだった。(大西 健太)

【新大関に聞く】

 ―今の心境を。

 「うれしい気持ちもあるが、これからもっと頑張りたい気持ちの方が強い。伝達式の映像は何度も見た。口上をしっかり言えて良かった」

 ―初土俵から所要14場所での大関昇進。

 「自分でも、びっくりしている。スピードは意識したことがない。上がれたということは、今までやってきたことは間違えていなかった」

 ―伝達式に来られなかった両親へ。

 「『おかげさまで』と報告したい。子どもの頃からスポーツをやってきて、それを支えてくれたことを感謝している」

 ―師匠に対する思いは。

 「一つの恩返しができたのではないか」

 ◆大関に昇進するとどうなる?

 ▽月給 250万円で三役から70万円の昇給。横綱は300万円。

 ▽降下 2場所連続の負け越しで関脇陥落。落ちた場所で10勝以上すれば復帰。

 ▽待遇 年3回の東京場所は自家用車で両国国技館の地下駐車場まで入れる。移動時も飛行機はファーストクラスで新幹線はグリーン車。

 ▽化粧まわし 房に位の高さを表す紫色の使用が可能に。

 八角理事長(元横綱・北勝海)「最後まで諦めない強い精神力と勝負どころでの冷静さが際立っていた。心技体全てにおいて成長し続け、次の時代を切り開く存在として一層精進してくれることを期待している」

 鳴戸親方(元大関・琴欧洲)「真面目で一生懸命、それに尽きる。本当によくやっている。

ウクライナの人にも夢や希望を与えたのでは」

 伝達式の使者を務めた浅香山理事(元大関・魁皇)「上を目指して頑張ってほしい。力強さも技のうまさもある。まだまだ、もっともっと伸びていく」

 ◆安青錦 新大(あおにしき・あらた)本名ヤブグシシン・ダニーロ。2004年3月23日、ウクライナ・ビンニツャ生まれ。21歳。7歳で相撲を始める。23年秋場所で初土俵。25年春場所で新入幕。三賞6度。しこ名は師匠(元関脇・安美錦)から安と錦をもらい、ウクライナの国旗と目の色から青をつけたのが由来。182センチ、140キロ。得意は右四つ、寄り。

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