映画「ロッキー」シリーズの主人公ロッキー・バルボアの吹き替えなどで知られ、現役最高齢ともされる声優の羽佐間道夫(92)が、21日に公開されたアニメ映画「果てしなきスカーレット」(細田守監督)で脇役ながら存在感を示している。偶然から出演が決まった同作への思いや、90歳を超えた現在も精力的に続ける仕事への向き合い方などを語った。

(高柳 哲人)

 父を殺して王位を奪った叔父・クローディアスへの復讐(ふくしゅう)を果たすために、「死者の国」で旅を続ける王女スカーレットの姿を描く「果てしなき―」。同作で羽佐間は、スカーレットが旅の道中で出会うキャラバンのリーダーである「年寄りの長」の声を担当。物語の前半から半ばにかけての場面で登場するのみだが、スカーレットが自らを顧み、「今までの考え方は本当に正しかったのか?」と自問自答するきっかけを与えるキーマンの一人を演じている。

 細田監督作品へは今回が初参加だが、”仕事依頼”は「廊下を歩いていたら、いきなり引っ張り込まれて、(声を)録られちゃったみたいなもの」と振り返るように、突然だったという。

 「僕はスタジオで他の番組を収録していたんですが、その声を聞いた(『果てしなき―』の)スタッフの方が『あっ、今の声いいんじゃない』みたいな感じで選んでくれたんです」

 その後、細田監督と対面し、「これを読んでください」と台本を渡されたという。キャラクターに対する説明や「こうしてほしい」という注文は一切なかった。

 「それでテストでパッと読んだら『はい、本番いきましょう』って。そこから2回読んだら終わっちゃった。だからスタジオ滞在は10分間っていうね。そういう感じだったんですよ。こんなにサッパリした監督だったら、またやってみたいね」(笑)

 もちろん、冗談交じりの誇張も入っているとは思うが、実は過去にも今回と同様にいつの間にか出演が決まっていたという経験があったという。それも細田監督と同じ、いやそれ以上の「アニメ界の大御所」との仕事だった。

 「実は、『赤毛のアン』のナレーションの時も、同じような現象があったんです。その時に廊下にいたのは高畑勲さんっていう人だったんですけどね(笑)。確か、宮﨑(駿)さんも一緒にいらっしゃったと思うんだけどな…」

 一流が一流を呼ぶということなのか。羽佐間は「神が仕掛けたものって言うとオーバーなんだけどね」と話しつつ、出会いに感謝した。

 あれよあれよのうちに終わってしまった声の吹き込み。そこには長年の積み重ねで培われた感性と、監督との相性があったと考えている。

 「監督が、私が(物語を)よく知らないうちの(演技の)方がいいと思ったのかな。やっぱり役者って、全部を知るといろんな作り事をしちゃって、構えてしまう。この役では、そんなのが欲しくなかったんじゃないのかなと思いますね。だから私も、感じたまま演じました。インスピレーションというか、サッと捕まえた瞬間芸みたいなものでしょうか」

 その”瞬間芸”の中で、最も大切なものは何か。羽佐間はセリフとセリフの「間」だと考えている。

そして、それは若い時のある経験が大きかったという。

 「僕はね、自分の中で一つだけ『評価されていいのかな』と思うことがあるんです。それは、新劇をやっていた時に寄席の切符売り場でアルバイトをしていたこと。その時に落語を聞いて、噺家(はなしか)の人たちに『間』を教わったんです。いい役者は『間』をうまく使う。だから私は、羽佐間の『間』をこれからも勉強して参りたいなと思っていますね」

 90歳を超えてもなお「もっとうまくなりたい」という気持ち。今回のタイトルに重ねれば「果てしなき仕事」と言えるかもしれない。

 これまで、自分の仕事を確認することもあり、何度か本作を見返したという。ただ、21日に公開されたことで「ようやく大きなスクリーンで見ることができる」と楽しみにしている。

 「今まで見たのは、テレビサイズだったんだよね。でも、この作品は映画館のスクリーンで見ないと伝わって来ないところがある。群衆のシーンなんて、絶対に実写では撮れないというか。

これは(アニメには)かなわないと思うんですよ。音響もすばらしいし、本当に(設備が)全てそろった映画館で見てほしい。家で見るのと絶対に違いますから」

 ◆羽佐間 道夫(はざま・みちお)1933年10月7日、東京都出身。92歳。舞台芸術学院を卒業後、劇団などを経て声優の道へ進む。2001年に第18回ATP賞ナレーター部門の個人賞、08年に第2回声優アワードでは功労賞、21年には東京アニメアワードフェスティバルで功労賞を受賞。現在、Disney+で配信中の米ドラマ「マーダーズ・イン・ビルディング」では、スティーブ・マーティンの声の吹き替えを担当。

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