プロボクシング世界3階級王者・中谷潤人(27)=M・T=がスーパーバンタム級転向初戦に向け、世界同級4団体統一王者・井上尚弥(32)=大橋=からダウンを奪ったWBA世界同級2位ラモン・カルデナス(30)を相手にスパーリングをしている。来年5月に井上戦が期待されるだけに、これ以上ない練習相手に恵まれた。

中谷が今、感じていることをつづる「BIG BANG!」。第8回は米国合宿の手応えと、打倒・井上へ、3階級4団体統一王者テレンス・クロフォード(38)=米国=を参考にしていることを明かした。

  * * *

 こんにちは。中谷潤人です。7日にロサンゼルス入りし、12月27日、サウジアラビアでのセバスチャン・エルナンデス選手(25、メキシコ、WBC9位)とのスーパーバンタム級転向初戦に向けて実戦練習を重ねています。集中できる環境で、しっかりスイッチは入りますから、充実しているなっていう感じです。

 スパーリングでは、自分の距離をしっかり保つこと、そして相手の距離にさせないというのを大きな課題にしています。仮に相手の距離になっても、そこはしっかり対応しないといけないので、ラウンド途中でも修正できるよう動いています。

 実戦練習ではフェザー級など少し体の大きい選手を相手にしていますが、カルデナス選手と手合わせする機会に恵まれました。5月に尚弥選手と対戦し、今回が再起戦となる彼の相手が僕と同じサウスポーで、僕の相手(エルナンデス)はオーソドックス。条件がタイミング良く合って、すごく良い練習ができています。

 カルデナス選手はパンチ力が強いというより、スピードとタイミングが良い選手という印象。

尚弥選手から左フックでダウンを奪いましたが、練習で向き合っての印象だと、結構目が良くて反応も良いので、タイミングを取るのが上手な選手だと感じます。エルナンデス選手とスタイルはあまり似ていませんが、接近して自分の距離になった時に手数を出してくるところに共通部分があるので、そういう動きにさせないようにしたりとか、いろいろなパターンを試せています。同じ階級だから将来的に試合で対戦する可能性もあります。手の内はある程度知られてしまうかもしれません。でも、お互いが次戦に強くなるために協力しあえて、切磋琢磨(せっさたくま)していけるのは本当に素晴らしいと思います。

 尚弥選手はさまざまな引き出しを持っているので、僕自身も引き出しの多さと、その質の高さを持って戦わないといけない。質の高さというのは、パンチのタイミングだったり、リングをどう支配していくかという戦い方であったり…。尚弥選手相手にリングを支配するということは、トップレベルの選手でもなかなか難しいでしょう。そういったところで刺激をもらっているのがクロフォード選手です。駆け引きができ、リングを支配する力は強いですから。

 クロフォード選手には23年秋のWBO年次総会(プエルトリコ)で会い、昨年12月のWBC年次総会(ドイツ)で再会。僕のことを覚えていてくれて、「引き続き、頑張ってくれ」と言われ、励みになりました。

 今回階級を上げるにあたっては、今年9月に行われたカネロ(サウル・アルバレス=メキシコ)との世界戦がすごく参考になりました。上の階級で戦っているカネロと対戦するために階級も上げてきたことは、まさに自分に置き換えられます。フィジカル的に優位に立つ相手に、どう戦っていくかということに加え、メンタリティーなところにも刺激を受けました。

 いきなり2階級上の相手に勝つのは無理だろうと言われている状況で、しっかり自分自身を信じて、パフォーマンスしていました。カネロの圧に対して、常に後ろに下がらされるのではなく、仮に下がったとしても、その場の状況に対応してパンチを合わせていく。下がりすぎずに相手の攻撃をうまくいなし、リング中央でしっかりとカネロを迎え撃つという構図を作っていました。しかも、そこで終わりではなく、その後に追撃もできる態勢を作っていました。本当にバランスの取れた攻防と、リングを最後まで支配をしていたことが、すごく印象に残っています。そういうクロフォード選手のボクシングを、今は自分のボクシングに落とし込むという感覚でいます。

 クロフォード選手は構えを左右にスイッチするんですが、彼の左構えを結構、参考にしています。過去の試合から、オーソドックスに対するサウスポーの戦い方です。パンチのタイミングの取り方だったり、パンチを合わせるタイミングだったりというのを、自分のボクシングに取り入れています。

加えて距離感の取り方とかも。その距離を取るために、「前の手」(右手)がすごく重要なんですが、その前の手の使い方などは勉強になります。

 自分は今、世界チャンピオンではありません。だから、世界チャンピオンになるという高いモチベーションがあります。そして、それは本当に力になっています。この階級でも世界を取るという気持ちを持って階級を上げているので、それを初戦でしっかり発揮できたらなって思っています。感謝! 感謝!(世界3階級王者)

 ◆カネロ―クロフォード戦VTR(25年9月13日、米ラスベガス) 世界4団体スーパーミドル級統一王者アルバレスにWBA世界スーパーウエルター級王者クロフォードが挑戦。序盤から左構えのクロフォードがスピードを駆使して主導権を握った。カネロは強打で反撃を図るも、挑戦者は軽快なフットワークと絶妙なコンビネーションでポイントを重ねた。ともにダウンは奪えず判定へ。116―112、115―113×2の3―0でクロフォードに軍配が上がった。

 ◆テレンス・クロフォード 1987年9月28日、米ネブラスカ州生まれ。

38歳。2008年3月にプロデビュー。14年3月にWBO世界ライト級、15年4月に同スーパーライト級王者となり、17年8月に4団体王座統一。18年6月にWBO世界ウエルター級王者となり、23年7月に史上初めて2階級での4団体統一王者に。24年8月、スーパーウエルター級でWBA&WBO暫定王座獲得。25年9月にスーパーミドル級4団体統一王座を奪取した。身長173センチの左右ボクサーファイター。戦績は42戦全勝(31KO)。

編集部おすすめ