◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 男子プロゴルフで2度の賞金王に輝いた谷口徹(57)が先日、第一線から退くことを明言した。脳裏に浮かんだのは2007年全米オープンの思い出だ。

 大会開幕の数日前、パイレーツの桑田真澄がメジャーに昇格すると聞いた。清原和博を含めた3人がPL学園でクラスメートだったのは有名な話。ゴルフの会場はピッツバーグ近郊、日程もドンピシャだ。私は谷口に電話をかけ、観戦記を依頼した。

 当日はメジャー担当記者や球団の尽力で、試合前のベンチに入れてもらえた。2人は「久しぶりやなあ」と談笑し、再会を喜んだ。観戦中、谷口から聞いた言葉が忘れられない。

 「清原はバッターだから少し違うけど、桑田の気持ちは分かる部分があるんよ」

 その真意とは。

 「孤独、だからかな。向こうはマウンドで1人。自分もコースでは、ね」

 桑田には登板機会が訪れず、観戦記もお蔵入りとなったが、谷口は終始笑顔でメジャーの雰囲気を堪能していた。ともに体格に恵まれているとは言いがたいが、巧みな技術を駆使して海外に挑んだ部分にも共感したのだろう。

 “最後のラウンド”となった先月のカシオワールドオープンでは、多くの後輩プロが待ち構えて拍手を送り、胴上げされた。若手を引き連れたシーズン前の合宿では食事代を全て負担。選手に帯同するプロキャディー数十人と毎年のように食事会を開催するなど、裏方への心配りも欠かさない。

 あのときは「孤独」と言っていたが、とんでもない。集まった人の笑顔と涙が、その功績を物語っている。(地方担当・岩崎 敦)

 ◆岩崎 敦(いわさき・あつし)1994年入社。ゴルフの知識だけはあるのに100切りは数える程度。

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