「GREAT歌舞伎」で女優登場は初めて。寺島しのぶが出演する東京・歌舞伎座「芝浜革財布」(第2部、26日まで)が話題だ。

「文七元結物語」(23年)以来、2度目の歌舞伎座。落語でも知られる夫婦の物語で一つの革財布を巡って展開していく。

 寺島の父で人間国宝、7代目尾上菊五郎の代表作の一つ。稽古場にも度々姿を見せた。親の前で演じる。歌舞伎俳優同士の親子なら当たり前のことが、寺島には初めての経験だった。「稽古場ではとても近くに父がいる。自分に一体どこまでできるのか、の不安もありました。でも逆に集中していた。見てもらっている、という安心感から来るのでしょうか」

 これまで芝居について語り合うということも、あまりなかった。しかし、父が演じてきたことで知りたいことが増え、聞きたい衝動に駆られる。「『お父さんの時は、どうだったんですか』とか。

この今になって、初めて話している感じなんですよね」

 江戸っ子気質(かたぎ)の魚屋政五郎を中村獅童、寺島はしっかり者の女房おたつを演じている。「とにかく政五郎のことが大好き、という女性。すっごくいい役」と役をいとおしむように話す。寺島の芝居を見ていると、こういう芸の継承もあるのだな、と思えてくる。

 ふだん父が使う楽屋に入っている。鏡台は祖父(7代目尾上梅幸)のもの。父がいつも鏡台を置く場所でなく、かなり手前の位置で“準備”しているという。「父には『奥、使えよ』と言われました。でもどうしても、それはちょっと、違うんじゃないか、と思えて」。歌舞伎に恋い焦がれた寺島は「今回最後と思って」と舞台で歌舞伎座の空間を感じ取る。同時にまた新たな神聖さにも気づく。あらゆる感性を研ぎ澄ませ、役に向き合っている。

(内野 小百美)

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