俳優のムロツヨシ(49)が佐藤二朗(56)とダブル主演する映画「新解釈・幕末伝」(福田雄一監督)が19日に公開される。坂本龍馬(ムロ)と西郷隆盛(佐藤)が生きる激動の幕末を新解釈で描く喜劇。

龍馬を演じるムロは来月50歳となる自身を見つめ、「野心家でありたい」と言う。スクリーンの真ん中で、新たな龍馬像を描いたムロの「野心」の源を聞いた。

 福田監督の劇場公開作品は今作で20作目。ムロはそのうちの19作に出演しているが、その中で、主演となるのは初めてのことだ。「撮影に入る日は今までは自分を解放する、アピールする時間でしたが、今回は自分が背負う立場になったので、うれしさとやりがい、素敵なプレッシャーがありました」

 企画のはじまりはムロの直談判からだった。新型コロナ禍で自宅にいた際、書き出した「やりたいことリスト」の中に「福田組を背負う側になりたい」という思いがあった。「これまで、作品を背負う表現ができる役者さんがいつも真ん中に立っている中で、僕はその周りで、他の役者さんがやらないような立ち回り、言い回しのお芝居をしてきた。その独自性で福田さんに認めていただいて、福田さんを通してお客さんにも笑ってもらうようになったおかげで、今があると思っています。でも、(新型コロナ禍で世の中が)ストップしたあの時に、自分もその真ん中に立たなければ、これからも周りで何か立ち回る役回りをするときのプラスアルファは生まれない。そろそろ僕も真ん中に立ってもいいのではないかと思いましたし、立ってる自分を自分で見たいと思ったんです」

 福田監督にその思いを伝えに行くと、即答で「できる」と返ってきた。これまでの福田監督作品で見せてきた芝居を封印した佐藤と並び、「覚悟を持った悪ふざけ」で作品を背負ったムロによる「クソ真面目な喜劇」が生まれた。

 軽妙な口調で「まあまあまあ…」と関係を取り持ち、「いったん、同盟っとく?」と持ちかける今作の龍馬。

激動の時代の中にいた龍馬は果たして、何者だったのか。劇中では、西郷が龍馬本人にその問いをぶつける場面もある。では、ムロツヨシは何者か。「なんだろう」。一拍の間の後、いつもの口調で答えが続いた。「役者という生業(なりわい)を言わないのであれば、また野心家って言い始めますかね。何の野心かはまだわからないですけど。最初はその野心でこの世界の一歩目を踏み出したので。この映画も野心から始まっていますし、映画公開のひと月後には50歳になる中で、野心をためにためて、50歳からいいリスタートができるような準備をしています」

 「野心」。強い言葉の根源にあるのは「世代観」だ。例えば、学生時代の「調べる道具」ひとつをとっても、デジタルネイティブの下の世代と辞書で調べてきた上の世代との間にいるのがムロの世代である。「僕らはどっちもやってきたんですけど、どっちも不器用なんですよ」。

先に続く言葉ににじむものこそが、あきらめではなく、「野心」だった。「今までいろいろあがいて得てきたものも、その手間は必要じゃなくなる時代で。でも、だからと言って、もう下の世代には伝わらないんだと諦めて、自分たちのやりたいようにだけやっても、たぶん僕たちが楽しくないと思うんです。だからせめてその中で、何かしらの前例を作りたい。役者をやってあがいた人の前例を見てもらって、『あんなやつもいたんだからできるだろう』とか、『あんなやつにはなりたくねーけど、私でも役者できるかも』とか。消去法の消去される側でもいいんです。思いつきの源になる前例になれればと思ってやっているところがあります」

 50歳になる肉体の中で、たぎる思いが伝わってくる。「『野心』とか言わずに、皆さんに芝居を見てもらって、納得してもらう、感動してもらう、夢を持ってもらう、というのが理想ですが…僕は『野心家』と自ら言って、自分で自分を追い込んでいくスタイルでいられれば。そうすれば、いつか自分が自分に感動できる日も来るかもしれないと思っています。改めて、バカにされてもいい野心家を目指して、行動、言動、おふざけをしていきたいなと思います」。ムロはニコリ、と笑った。

 最後に、「いっぱいいろいろ聞いてくれて、伝えようとしてくれてありがとう」と言って部屋を出て行く背中。

取材中、質問を伝えるのに何度も言葉に詰まってしまった記者への気づかいだった。あたたかい「野心家」はその生きざまで、時代を拓いていく。(瀬戸 花音)

 ◆「新解釈・幕末伝」 今から約150年前、幕末の世で日本の未来を変えるため、西郷と龍馬が立ち上がった。「ペリー来航」「新撰組」「薩長同盟」多くの革命的な出来事が繰り返され、新しい「ニッポンの夜明け」に向かっていく。その激動の時代の裏にあった戦いと、友情の物語。龍馬は何を成し遂げ、西郷はどんな男だったのか。119分

 ◆ムロツヨシ 1976年1月23日、神奈川県出身。49歳。東京理科大在学中に役者としての活動を開始し、中退。下積み生活を経て、2005年の映画「サマータイムマシン・ブルース」を機に、フジテレビドラマ「踊る大捜査線」シリーズやフジテレビ「うちの弁護士は手がかかる」(23年)、NHK大河ドラマ「どうする家康」(23年)、映画「身代わり忠臣蔵」(24年)などに出演。身長168センチ。血液型A

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