「第50回報知映画賞」の表彰式が15日、東京・渋谷区のセルリアンタワー東急ホテルで行われた。「国宝」(李相日監督)で希代の歌舞伎女形を演じた主演男優賞の吉沢亮(31)は、ブロンズ像を手に賞の重みをかみ締めた。

今作は30歳になって初めて臨んだ作品。2009年に芸能界入りして16年、「役者人生の一つの集大成。大きな区切りの作品になった」と感慨深げ。「これからがまた、役者人生の新たなスタート」と飛躍を誓った。「国宝」は作品賞、監督賞と3冠に輝いた。

 共演した田中泯(80)とガッチリと握手し、笑顔で抱擁を交わした。激励を受けると、吉沢の表情は一瞬にして引き締まった。「泯さんは、とんでもない存在感がある役者さん。生きてきた人生でしか得られないものだけど、自分も“何か”が出せる役者になりたい」と自らに言い聞かせた。

 任侠(きょう)の一門に生まれながらも、才能を買われ、単身歌舞伎の世界に飛び込む立花喜久雄を演じた。壇上で浮かんだのはスタッフ、共演者、エキストラまで大勢の「顔」だった。「ただただ、憧れの李監督の作品というだけで飛び込んだ世界。

関わった全ての人のおかげで、その瞬間だけ歌舞伎役者になれた気がした。喜久雄として生きることができました」

 09年に所属事務所のオーディションで芸能界入り。そこから16年、自身が30歳になって初めて臨んだ作品だった。歌舞伎の稽古には1年半を要した。

 「一つの役に費やすのはぜいたくな時間」だが、稽古を重ねれば重ねるほど感じたのは無力感。「何百年と続く日本の伝統文化。歌舞伎役者の方は子どもの頃から舞台に立って、何十年と芸と向き合いながら積み上げていく。やればやるほど、習得するのは不可能と気付く毎日…。それでもやるしかない」。意地だけが吉沢を支えた。

 歌舞伎名門の御曹司・大垣俊介役の横浜流星(29)とは、稽古から切磋琢磨(せっさたくま)。役をやり遂げる上で不可欠な存在だった。

「簡単な言葉になってしまうけど、彼はストイック。ストイックでいてくれたから、しがみついてやることができた。隣で一生懸命に歌舞伎役者になろうとしている姿を見ていたから頑張れた。彼が“俊ぼん”で良かったです」

 今作で共演した渡辺謙(66)は「明日の記憶」(06年)、「沈まぬ太陽」(09年)で報知映画賞主演男優賞を受賞。自身も名前を刻んだが、「歴史ある賞に、しかも50回という記念すべきタイミングで頂けてうれしい。役との出会いはタイミングだったりもする。『国宝』という作品が評価されたから賞を頂くことができた」と慢心はない。

 「役者人生の一つの集大成。大きな区切りの作品になった。また素敵な役と出会えるように、準備を怠らずに役と向き合っていきたい」。これまで通り真摯(しんし)に、実直に取り組んでいく。(加茂 伸太郎)

 ◆吉沢 亮(よしざわ・りょう)1994年2月1日生まれ。

東京都出身。31歳。2009年「アミューズ全国オーディション」で審査員特別賞。11年「仮面ライダーフォーゼ」にメテオ役で出演。13年「ぶっせん」でドラマ初主演。16年「サマーソング」で映画初主演。主な出演作に映画「キングダム」シリーズ、NHK連続テレビ小説「なつぞら」「ばけばけ」、NHK大河ドラマ「青天を衝け」。来年7月開幕のミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」で柿澤勇人とダブル主演する。

 ◆選考委員 浅川貴道(読売新聞文化部映画担当)、荒木久文(映画評論家)、見城徹(株式会社幻冬舎代表取締役社長)、藤田晋(株式会社サイバーエージェント代表取締役会長)、松本志のぶ(フリーアナウンサー)、YOU(タレント)、LiLiCo(映画コメンテーター)、渡辺祥子(映画評論家)の各氏(五十音順)とスポーツ報知映画担当。

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