脚本家で演出家の福田雄一氏(57)は自他共に認める恐妻家だ。6歳下の妻から作品に対して超辛口のダメ出しをされるのは日常茶飯事。

家庭では脚本の執筆より炊事、洗濯を優先する。17年前に無名だったムロツヨシ(49)を発掘したのも妻だった。脚本、監督を務めた映画「新解釈・幕末伝」(公開中)など、独特のセンスが光るコメディー作品に定評のあるヒットメーカーに妻への思いや創作のこだわりを聞いた。(有野 博幸)

 「褒められるのが苦手。叱られるとホッとする」という珍しいタイプ。福田氏は「家庭で毎日、妻に叱られてますから。脚本を『面白くない』と酷評されて、全面的に書き直したことも。褒められたことはない。『普通』と言われたら合格。叱られたいし、軽んじられたいんですよね」と恐妻家ぶりを明かした。

 28歳の時、22歳の大学生だった妻と結婚した。酒、たばこ、ギャンブルをやらず、家庭では炊事、洗濯を担当する。

「息子の弁当も僕が作っていました。徹夜で脚本を書いて、料理が間に合わない時には朝早く、駅前のスーパーまで走って総菜を買いに行ったこともありました」

 ムロとの出会いも、妻からの推薦がきっかけだった。福田氏も演出で参加した2008年のドラマ「33分探偵」(主演・堂本剛)に誘拐犯の役で出演していたムロを見た妻から「素晴らしい役者さんがいた」と紹介された。他のディレクターが演出を担当した回だったため福田氏は撮影現場に立ち会っていなかったが、「あなたの監督人生を左右するから、必ず会った方がいい」と背中を押された。

 ムロと学芸大学駅前の焼き肉店で食事をすることに。初対面で「この人、人たらしで絶対に嫌われない人だな」と実感したという。「今のまんま。何も変わらないムロツヨシがいました」。当時、映画監督デビュー作「大洗にも星はふるなり」(09年、主演・山田孝之)で浮気目的でアルバイトに来る役の俳優を探していた福田氏は、焼き肉店を出た直後に「見つけました」とプロデューサーに電話した。それから17年。ムロと佐藤二朗(56)は「福田組の風神雷神」と称される、欠かせない存在になった。

 「事前に俳優と役づくりの打ち合わせをしない」というのが福田流の演出だ。

「役者さんから『こんな芝居を考えてきたんです』と提案してもらうのが幸せ。僕が脚本を書いているので、頭の中に理想型があるけど、それが正解じゃない。逸脱してほしい。想像を超えた時が一番うれしい瞬間。監督という意識もない。脚本を書いたご褒美として現場で見させてもらっている感覚。福田組が役者さんに愛してもらえる理由は、そこなんじゃないかな」

 ムロ、佐藤を始め、映画「HK/変態仮面」(13年)の鈴木亮平(42)、ドラマ「今日から俺は!!」(18年)の賀来賢人(36)ら多くの俳優が福田組を経験し、ブレイクしている。「亮平はNHKで朝ドラ『花子とアン』のオーディションを受けて『変態仮面が面白かったです』と言われたそうです。ここ最近で一番、うれしかったのは亮平と賢人がビールのCMに出ていること。みんな福田組を卒業して、羽ばたいている。うれしいですね」

 23年と25年にミュージカル「ビートルジュース」でタッグを組んだSixTONESのジェシー(29)も福田氏が「僕の創作方針と合致する」と信頼を寄せる俳優の一人だ。「公演が2か月あって、休演日にジェシーはレギュラー番組の収録をしていたんです。

一日も休んでないのに、歌も芝居も圧巻。絶対に愚痴を言わないし、真面目にふざけるのが大好き。彼との仕事は楽しいです」

 幼い頃、ザ・ドリフターズの公開バラエティー番組「8時だョ!全員集合」に夢中になった。「志村けんさんみたいになりたいと思った。だから僕も、子供たちに『こんな楽しいことをしている大人になりたい』と思ってもらいたい。もちろん、脚本の執筆で悩むことはあるし、死ぬほど苦しいです。でも、作品が世に出る度に『いやー、楽しかった』『だいぶ、ふざけました』と言い続けたい」と強い信念を持っている。

 「新解釈・幕末伝」はコロナ禍でさまざまな仕事が自粛を余儀なくされていた時期に、ムロから「福田組を背負わせてください」との提案を受け、「長年、福田組を支えてくれている二朗さんとダブル主演でやろう」と応じた。福田氏は当時、体調を崩していたが、2人に加えて「勇者ヨシヒコ」シリーズの山田孝之(42)から「福田さんが元気になるなら、何でもやります」と励まされた。

 坂本龍馬役のムロ、西郷隆盛役の佐藤、桂小五郎役の山田による30分以上に及ぶ「薩長同盟」の場面が見どころだ。「ムロくんはシリアスなお芝居もうまいけど、真骨頂はコメディーの瞬発力。それに応える二朗さん、山田くん。

日本の歴史を描いた映画だけど、福田組の歴史を感じて、肯定された気持ちになりました」と満足そうな表情を浮かべた。

 何事も面白がる性格。作品の評判はSNSのエゴサーチでチェックする。「褒めてくれるコメントは、ほぼ読まない。むしろ文句やクレームがありがたい。落ち込むことはないです。舞台だったら、次の日から取り入れることもあります」。その前向きさと柔軟性が、ヒット作を生み出す原動力となっている。

 ◆福田 雄一(ふくだ・ゆういち)1968年7月12日、栃木県生まれ。57歳。成城大卒。劇団ブラボーカンパニー座長。

2009年に映画「大洗にも星はふるなり」で監督デビュー。主なドラマは「勇者ヨシヒコ」シリーズ、主な映画は「銀魂」シリーズ、「今日から俺は!!劇場版」「新解釈・三國志」など。演出するミュージカル「サムシング・ロッテン!」が東京国際フォーラム・ホールCで上演中。

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