プロボクシング世界4団体スーパーバンタム級統一王者・井上尚弥(32)=大橋=が27日、サウジアラビアの首都リヤドで、WBC2位のアラン・ピカソ(25)=メキシコ=に判定勝ちし、統一王座を防衛した。父の真吾トレーナー(54)はスポーツ報知に手記を寄せ、激闘を振り返った。

「ピリピリ感がなかった」との辛口も、2013年以来となる年4試合はすべて4団体王座統一戦という離れ業に「今年は最高の年」と愛情のこもった評価を示した。

 勝ってホッとしたというのが正直な思いですね。展開は自分のイメージ通りで、ピカソは手数が多く好戦的と、思っていた通りの相手でした。でも、いつもの尚弥のボクシングができなかった。序盤、尚弥にピリピリ感がなく、内容的には「…」でした。

 決して相手をなめていたわけではないんでしょうが、少し余裕を持っていたようにも見えて…。確かにピカソはしっかりガードはしていました。尚弥は中盤から後半には動けていたので、その動きが始めからできていればよかったんです。勝つだけではなく、尚弥らしいボクシングを見たかった。ああいう相手だからこそ、もっとピリッとしないと。自分が思う尚弥は、もっとできるはずだから。本人も同じことを考えていると思いますよ。

倒して勝つと言ったのなら、試合の組み立て方をもっと考えないといけなかった。ただ勝てばいいわけではない。自分も尚弥本人も納得した勝ち方をしないと周りも納得しませんから。でも、これがボクシングの難しさ、なんでしょうね。

 それでも、今年は最高の年でした。尚弥は年4勝で、弟の拓真(30、大橋)も戻って来てくれた。拓真は11月にWBC世界バンタム級王座決定戦で那須川天心選手(帝拳)と対戦しましたが、尚弥も弟のサポートをしていました。自分の練習はしっかりやって、その合間に拓真の練習を見たり、練習後にアドバイスしたり。拓真は本当に頑張って、結果(判定勝ちで王座獲得)を出してくれました。弟思いの尚弥だから、拓真がカムバックするまで心配も不安もあったでしょう。結果が出た時にはすごく喜んでいましたから。尚弥は拓真の試合が終わると、すぐに『尚弥モード』に切り替えていました。

あんないい試合を見せられたから、気持ちにスイッチが入ったんでしょうね。「今度は俺の番だ」と。そして最後には勝利という結果は出してくれた。それができるのが尚弥、なんです。

 2026年についてですか? 少し休んでエネルギーを蓄えて、次の試合が決められたら、そこに向けての戦いが始まるだけ。尚弥が東京ドームで、言われている相手との試合が決まれば? 気持ちのスイッチはメチャクチャ入ると思う。ただ、先のことを考えるのはファンの方やメディアにお任せして、自分は目の前のことだけを考えます。それがトレーナーの立場であり、父親の立場でもありますから。(大橋ジム・トレーナー)

 ◆井上 真吾(いのうえ・しんご)1971年8月24日、神奈川・座間市生まれ。54歳。有限会社明成塗装代表取締役を務め、不動産業などの実業家の顔を持つ一方、大橋ジムにトレーナーとして所属し、息子の井上尚弥、拓真兄弟、おいの浩樹らを指導している。2014年には、最も功績を残したトレーナーをたたえるエディ・タウンゼント賞を受賞。

23年にはWBCと日本で最優秀トレーナーに選ばれ、24年はWBA年間最優秀トレーナー賞を受賞。

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