落語家の初代林家三平さんの妻で、エッセイストの海老名香葉子(えびな・かよこ、本名同じ)さんが24日、老衰のため死去した。92歳だった。

29日に近親者のみでの葬儀を終え、長男で喪主の林家正蔵(63)が公式サイトで発表した。

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 2018年8月、平成最後の終戦の日を迎えるにあたりインタビューを申し込むと、根岸の自宅に招いてくれた。幸せを感じる瞬間について話したとき、香葉子さんは「歯磨き」だと言った。

 「疎開の時、母が歯ブラシと缶の歯磨き粉を持たせてくれたんですが、すぐなくなって仕方なく指で磨いていました。(戦後に)やっと歯が磨けたとき、『わあ、もしかしたら平和が来る』って幸せになりましたの」。歯を磨くたび、絶対に悲しみを繰り返させないという思いを抱き続けた。

 家族が生きた証しは両親の手紙と、末の弟から「ねえね」と渡されたメンコだけ。風呂敷に包み、毎日拝んでいた。想像を絶する別れがあったからこそ、自らが築いた家族への愛は人一倍深かった。初代三平さんの話をする時はいつも、花が咲いたようなかわいらしい乙女の笑顔になった。4人の子どもたち、一門の弟子たちにも深い愛を注ぎ続けたゴッドマザーだった。

 平和への活動は「100歳まで続けたい」と語っていた香葉子さん。

志は果たせなくなってしまったが、思いは必ず、愛する家族や次の世代に受け継がれる。(宮路 美穂)

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