邦画実写の興収記録を22年ぶりに更新し、歴代1位となった映画「国宝」(李相日監督)の大晦日特別上映会が12月31日、東京・歌舞伎座で行われた。吉沢亮横浜流星ら出演者に加えて、サプライズゲストとして歌舞伎俳優市川染五郎、市川團子が登場して大いに盛り上がった。

 歌舞伎を題材にした「国宝」は東宝の配給作品。それをライバル社である松竹が運営する歌舞伎座で開催するのは極めて異例だ。東宝によると、日本映画の歴史を塗り替えた感謝をファンに伝える場として上映会を企画。松竹に「歌舞伎の聖地である歌舞伎座で開催したい」と打診して快諾を得たという。

 これを聞くと松竹の度量の大きさを感じるが、むしろ松竹としては東宝に恩義を感じているだろう。「国宝」の大ヒットに呼応するように松竹が主催する歌舞伎の観客動員が右肩上がりに。映画をきっかけに歌舞伎座に足を運ぶ新規ファンによる「国宝効果」が原動力とみられている。

 この日の客席には吉沢、横浜のファンと思われる若い女性が多く、普段の歌舞伎座とは明らかに違う空気だった。彼女たちは舞台あいさつの開始前、一斉にメイク直しをしていた。登壇者は吉沢を筆頭に、鳥屋口から花道を悠々と歩いて舞台へ。最も歌舞伎座に慣れ親しんでいるはずの中村鴈治郎が照れくさそうに「何とも、はにかむような、うれしいような、どうしていいのか分からない、小躍りしたくなる気持ち」と語っていたのが、ほほ笑ましかった。

 現在は松竹が歌舞伎の興行を取り仕切っているが、かつては東宝でも歌舞伎を上演していた。

1961年には8代目松本幸四郎(後の初代白鸚)が息子2人と門弟を引き連れて松竹から東宝に移籍。東宝の歌舞伎は定着しなかったが、幸四郎の長男・市川染五郎(現・2代目白鸚)がミュージカルスターとして才能を開花させた。そう思えば、孫の当代染五郎がこの日、サプライズゲストを務めたことに運命を感じる。

 スマートにビジネスを展開する印象がある東宝だが、ここ最近は積極的な姿勢が目立つ。12月に米ロサンゼルスで行われたトム・クルーズ主催の上映会も東宝からトム側に打診して実現したものだ。米国アカデミー賞の国際長編映画賞を目指し、「可能性がある限り、できることは何でもする」という気概を感じる。

 「国宝」旋風が一層、世界に広がれば、日本の伝統文化である歌舞伎を知ってもらう機会になり、結果的に松竹にもメリットがある。両社がタッグを組むのも納得だ。(有野 博幸)

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