Webメディア編集長の武政秀明さんが初の著書「22文字で、ふつうの『ちくわ』をトレンドにしてください」(サンマーク出版・税抜き1500円)を上梓した。タイトル、見出し、キャッチコピー、件名、題名など、中身よりも前に相手に触れる「最初の言葉」をテーマに、短い言葉で相手の心をつかむ法則を実践的に解説した一冊だ。

Web編集者として、自ら7000本を超える記事タイトルをつけてきた末にたどり着いた境地。他人に伝えるために、一番大切なこととは。(加藤 弘士)

 渾身の取材を経て、いい記事が書けた。ネットニュースで発射後は、読者から大きな反響があるに違いない。ところがフタを開けてみたら、全くバズらず…。少し傷つきながらも「まあ、こんなもんかな」と自分を納得させる-。私もしょっちゅうの“記者あるある”だが、武政さんは本書で、読まれない記事は見出しに工夫が足りないと説く。

 「読んでもらえない、選んでもらえないときには、中身が原因ではない場合があるんです。最初に目に触れる入り口の言葉、『最初の言葉』と本では書いていますが、これが目に留まって相手の心をつかまないと、もうスルーされちゃう時代になっています。メディア関係者に限らず、一般のビジネスパーソンの方が書くメールの件名やプレゼン資料の見出しなど、関心を持ってもらうには『最初に、何を見せるか』が大切なんです」

 武政さんは本書で一例を挙げる。ランチタイムにパスタを食べようと、イタリアンレストランに入ったとする。メニューの「ベーコンのペペロンチーノ」を「富良野産ベーコンたっぷりのペペロンチーノ」にしてみたら…。

 最初に目にする言葉を変えるだけで、特別感が増し、心が動かされるのが分かる。

 「ここでのポイントは2つあって、1つは場所を入れること。富良野産という場所を入れることで、イメージがより具体的になる。さらにオノマトペの『たっぷり』を入れることで、読み手の感覚に働きかけるんです。LINEで『ご飯に行きませんか?』と誘うよりも、『高田馬場で、やきとんをたらふく食べませんか?』と少しだけ加えるだけで、ワクワク感が増していきます。印象が随分と変わるわけです」

 前提となる残酷な現実は、「人は、相手の話の80%は聞いていない」というもの。話し言葉だけでなく書き言葉でも同様のことが起こっている。コンテンツに対してもほとんどの人は、最初からその中身を詳しく見ようとは思っていないのが実態だ。そのためにも常に読み手の立場で考え、読み手の目線に立って言葉を選ぶ必要があると、武政さんは書く。

 「やっぱりみんな忙しいですから。ネット記事についても、タイトルが目を惹くか惹かないかで、私の調べではクリック率が最大4倍は開くんです。どんな言葉の選び方、組み合わせ方をするかで、本文までたどり着いて読むか読まないかが分かれてきます」

 「そこをひと工夫、ふた工夫することによって、相手の印象が変わったり、選ばれたり、よりよい結果につながっていく。

中身に99%の時間や労力を使って、見出しには1%しか使っていなかったとすれば、それを例えば中身98%、見出し2%とする。すると相手に届く言葉を選ぶ手間のかけ方は2倍になる。これだけでも結果は大きく違ってくるはずです」

 どうすれば人の心を動かして、読ませるタイトルを考えつくのか。同書では実例を基に、ロジカルに分かりやすくひもといていく。時代はAI全盛だが、「読み手の心に寄り添う」タイトルは現状、AIを駆使しても最適解は出せないという。

 「AIを使って、言葉を考える補助はできますが、AIに記事や企画書を読み込ませて、『いいタイトルを考えてみて』となった時、読まれるタイトルにならない例がほとんどです。なぜならば、AIは要約や直訳しかできない。相手への想像力はないからです。意訳や超訳、言い換えは人間にしかできないんです。AIでタイトルらしきものはできますが、『おっ!』って思わせて、人を行動に移させたり、記憶に残したりというところまではなかなかできない。伝わらない、味気ないものになる例がほとんどです。ネットニュースは視点や切り口が大切。

そういう意味では、AIに立ち向かうための思考のトレーニングにもなるのかなと思います」

 読まれるためのテクニックが満載の一冊だが、本書のキーワードは他者への「思いやり」だ。自分本位ではなく、読み手の立場で考えることの大切さを認識することで、言葉のセンスは格段に上がっていく。

 「具体性を増して、物語が見えてくることで、『相手の“自分ごと”にする』というのが一番のポイントだと思います。いかに相手の立場に立って、思いやった上で、相手の日常に入り込むような言葉を選べるか。文字を使って表現することが少しでもある方には、ぜひ読んでいただきたいですね。ちょっと考え方を変えることで、その方の人生が豊かになると思います」

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