◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 なぜリングに上がるのか。「世界王者になるため」「子供に戦う姿を見せるため」。

すべてのボクサーに、それぞれの覚悟がある。昨年大みそかに6回TKO勝利でA級(8回戦以上)昇格を決めた菊池音央(ねお、22)=志成=にも、胸の奥にしまっていた感情があった。「ずっと思っているのが、自分を証明したいというか。何て言うんだろうな…」。慎重に言葉をすくい上げるように話した。

 timeleszの菊池風磨(30)を兄に持つ。ずっと「菊池風磨の弟」と言われ続けてきた人生だったという。「ちっちゃい頃から、友達とか恋人に紹介される時も絶対に僕の名前の前に兄の名前が来て、もう僕の名前も言われない、みたいなことも。それでしか見られていないのなら生きている価値があるのかな? って思うぐらいの時もあった」。自身の人格が輪郭を失っていく。その違和感は、やがて自尊の根っこを浸食していった。

 昨年移籍した志成ジムでは、菊池を「誰かの弟」として見るものはいなかった。

「それが本当にうれしくて。生きている心地がするというか、自分をちゃんと見てくれていると思って、ボクシングもっと好きになった」と打ち明けると、「ここが居場所だと思った」と照れ笑いを浮かべた。

 「チャンピオンになって恩返ししたい」。そんな常とう句の後に核心を差し出した。「チャンピオンになって菊池音央を証明したい。チャンピオンになったら、みんなが認めてくれる。もうひたすらそこですね、目標は」。ようやく見つけた居場所は「誰かの弟」だけでは通用しないリング。「菊池音央」をまっすぐ表現できる舞台だ。(ボクシング担当・勝田 成紀)

 ◆勝田 成紀(かつた・しげき)25年から現職。26年の推しホープはアマリ・ジョーンズ。

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