◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 ノルディックスキー・ジャンプ男子のレジェンド、葛西紀明(53)=土屋ホーム=の9度目の五輪挑戦は17、18日のW杯札幌大会2連戦でともに予選落ちとなり、幕を閉じた。18日の試合後、声をかけると「次(30年フランス・アルプス地域五輪)も目指す。

また応援してよ」と現役続行を改めて宣言。握ってきた手の力強さに驚かされた。

 気力と五輪への執念は衰えない。1つ年下の私が「もうあちこち痛くて、次の五輪はテレビで見ますよ」と冗談めかして返すと「松チャン、すべては気持ちだよ。気持ち」と拳で胸をたたいて鼓舞してくれた。その姿は気力に満ちた昔の葛西そのものだった。

 16日の予選落ち(本戦は17日)が決まると、予選終了前に取材を受けずに会場を後にした。談話を発表したとはいえ、胸中は聞かずとも理解できた。五輪が消滅した18日、「悔しくて眠れなかった」と若手選手のように顔を紅潮させる姿はまぶしかった。

 「葛西世代」はもう50歳過ぎ。気力、体力の曲がり角。会社で難しい立場にいる人も多い。

葛西はそんな人生の岐路に立たされている世代の「旗手」でもある。その姿がどれだけの人々の勇気となっているか。

 母を火事で亡くし、金メダルを獲得した98年長野五輪団体メンバーから漏れる屈辱を味わい、その後、妹も病気で亡くすなど輝かしい経歴とは裏腹に、悲しみもあった人生。それでも「応援を力に」と苦難を乗り越え、競技を通して道を照らしてきた。「元気と勇気を届けられているなら続けたい」。その背中をずっと見ていたい。レジェンドはそう思わせてくれる人だ。(五輪担当・松末 守司)

 ◆松末守司(まつすえ・しゅうじ) 2020年入社。過去に冬季五輪3大会を取材。

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