オーストリア1部のザルツブルクやドイツ1部のレバークーゼンなど欧州の強豪クラブで監督をつとめ、現在はJリーグのグローバルフットボールアドバイザーをつとめるロジャー・シュミット氏(58)がスポーツ報知の取材に応じ、日本サッカーのさらなる発展に向けた提言を行った。監督時代は才能ある若手を積極的に起用し、数々のタイトルも獲得してきたロジャー氏。
〈1〉多角的に理解
―日本サッカー、Jリーグの印象は?
「(昨年10月の就任から)数か月が経ち、Jリーグを中心に20試合以上を視察してきました。私の中での全体像はかなりクリアになっています。試合を見るだけでなく、実際に各クラブを訪問し、スポーツスポーティングダイレクター(SD)や監督、コーチ陣とも対話を重ねてきました。アカデミーの現状にも触れ、日本のサッカーを多角的に理解できてきたと感じています」
―現場で感じたことは。
「非常にポジティブな印象です。スタジアムは常に活気があり、ピッチの質、環境面には感銘を受けています。さらにレフェリーの質も素晴らしい。私はこれまで5か国で監督をしてきましたが、これほど審判が安定している国は珍しい。多くの国では試合数が増えるとレフェリングの質の維持が難しくなりますが、Jリーグの審判は試合を適切にコントロールし、主役になりすぎることなく選手をプレーに集中させている。これは素晴らしい発見でした」
―日本のレフェリーについて、欧州の監督が高い評価を下す意見は珍しい。
「欧州では審判が話題の中心(批判の対象)になってしまうことが多い。
―日本では若い年代の指導も。選手にどんな印象を受けているか。
「U―16Jリーグ選抜の国内合宿や、イングランドでのU―18Jリーグ選抜を見て感じたのは、基本技術の高さです。パス、トラップの技術だけでなく、プレッシャーを受けた中での判断力も優れている。また過度に深刻な表情というより、楽しさや幸せをかみしめてプレーしている姿は印象的です。選手たちはチームスポーツであることを理解し、その一人としてプレーする自覚を持っていることは、非常にポジティブな点です。若い選手には、この姿勢を持ち続ける一方、自分の特別な武器を持つことを、もっと意識してほしい。例で挙げると、(PSV時代に指導した)フランクフルトの堂安律です。右サイドから『ここで持てば必ず何かが起きる、点が取れる』という再現性のある得点を続けていますよね」
―欧州では16~18歳からトップで活躍する選手も多い。Jリーグも出てきてはいるが、いまだベテラン優先のチームも多い。
「これは非常に重要なトピックです。日本の若手の質が足りないわけではありません。背景には、経験を重視してベテランを使うことが『一般的』とされる文化的な壁があるのかもしれません。若手の起用が、ファンの間でも、強くは望まれていないのかもしれません。しかし、出場機会は年齢ではなく、純粋なクオリティとインパクトをどのくらい残せるかという、『競争』で決まるべきです。欧州では10代の抜てきは日常的な光景なので、その原則が働きやすい。日本には、それが足りないのかもしれません。ただ欧州は、まだ若手選手が(肉体的や精神的に)もろい時期に積極的に起用しすぎるところもあって、それが日本とより対照的に見える理由とも言えます」
〈2〉常に情報共有
―日本でも若手が積極的に起用されるためには?
「Jリーグのスカッド(選手数)は多すぎます。(1クラブ)35~40名も抱えていては、若手の出場機会が少なくなる。欧州では育成のコンセプトがあるクラブは、意図して人数を減らしている。例えばバイエルン。ある時点では、全体を25人、そのうちGK4人、フィールドプレーヤーを17名程度に絞り、残り(4枠)をアカデミーの選手で担っていました。
―監督時代には、レバークーゼンではFWハバーツや18歳のMFユリアン・ブラント(ともにドイツ代表)を17歳で抜てき。他のクラブでも、積極的に若手を起用してきた。若手を起用する際に意識していたことは。
「闇雲に使うわけではありません。練習で自分の目で見て『特別な才能』だと確信した時です。欧州ではアカデミーとトップの橋渡し役が、常に情報を共有しています。特別な若手をケアしていく方法など、育成を重視する施策が当たり前になっています。また、クラブ生え抜きのデビューは、ファンや街のアイデンティティと結びつく点でも、とても重要です。例えば私がいた(ポルトガル1部)ベンフィカでは、アカデミー出身選手がデビューした時にサポーターがつくりだしてくれる雰囲気は、すごいものがありました。自分たちのクラブが育てた若手が、トップチームでプレーする瞬間をすごく大事にしていて、喜びます。それが価値となり、選手が活躍すれば(他クラブへの)売却につながり、クラブが潤います。
―日本では、クラブや監督は試合に勝利することにはこだわるが、若手を育てて売る「売却益」への意識が薄いと見える。監督時代のあなたは、そこまで意識していたのか。
「もちろんです。それは私の大きなタスクのひとつでした。例えばベンフィカでは(元ポルトガル代表のレジェンド)ルイ・コスタ会長から『優勝』『モダンなフットボールをみせること』そして『若手育成と売却益』の3つをタスクとして依頼されました。選手を育て、売却益を確保していかないと、クラブは消滅してしまう、とはっきりと言われました。そのため、私はそのタスクを引き受けるに当たって、当時39名いた選手を20名まで減らしてほしいとリクエストし、実現してもらいました。その結果、(アルゼンチン代表MFで現チェルシーの)エンソ・フェルナンデスのような若い才能が出場する余地が生まれ、2022年カタールW杯での大活躍もあって(チェルシーへ移籍し)、1億2100万ユーロ(当時のレートで約169億円。当時プレミア最高額)という巨額の移籍金をもたらすことができた。厳密に言えば、私は選手を売ることを目的にしていたわけではなく、選手を育てることに喜びや興味を抱いていたので、それができたという側面もあります。しかし、それがクラブの経営を支えることも理解しています」
〈3〉10代に希望
―日本サッカーがさらなるステップへ進むためには。
「Jリーグには欧州にもっと近づけるポテンシャルがあります。
―日本の16~18歳にその価値はあるか。
「すでにトップでやれるクオリティはある選手はいます。私は、18歳ですぐに選手を売れ、と言いたいわけではありません。若い選手をトップチームで定着させ、21~22歳まで活躍させてから『3000万ユーロ(約48億円)級』の価値で送り出せれば理想的です。これは監督一人の仕事ではなく、会長、経営陣、SD、ユース責任者が一体となって取り組むべきプロジェクトです」
◆ロジャー・シュミット 1967年3月13日、ドイツ生まれ。58歳。選手としてはドイツ下部リーグでプレーし、2004年にデールブリュックSCで選手兼監督として指導者キャリアをスタート。12年からザルツブルク、レバークーゼン、中国1部北京国安、オランダ1部PSV、ベンフィカと名門クラブを指揮。ザルツブルクで国内2冠、レバークーゼンでは欧州CLベスト16入り、ベンフィカでリーグ優勝とCL8強入り。昨年10月にJリーグの現職に就任。
JリーグSD育成専門プログラム開催
Jリーグは3月に「J.LEAGUE スポーティングダイレクタープログラム partnered with The UEFA Academy」を開催する。これはUEFA(欧州サッカー連盟)アカデミーと連携してJリーグが開発した、スポーティングダイレクター(SD)を体系的に育成する専門オリジナルプログラムで、Jクラブの競争力を底上げし、世界基準のフットボールマネジメントと意思決定ができる人材を育てることが目的となる。
近年、クラブの成否を左右する要職としてSDの役割は重要性を増しており、補強や育成戦略、財務、移籍交渉まで担う高度な専門性が求められている。今回の取り組みは、欧州最前線の実務と理論を日本で直接学ぶ機会となる。プログラムはリアル開催とオンラインを組み合わせた全5回(計60時間)。対象はJクラブ所属の強化部門責任者・担当者や、プロサッカークラブの運営・強化に関心がある人材となる。
講師にはレバークーゼンのケルド・ボーディンゴー氏ら総勢20名を超える、欧州で実績を持つ現役のスポーティングダイレクターを中心とするクラブ幹部が登壇。具体的な成功事例や欧州の最前線で培われた知見を共有し、実践的な判断力と交渉力を養う。受講料は165万円、定員30人。国際競争力向上を見据え、Jリーグは強化部門の高度化・専門化を本格化させる。
取材後記 ロジャー氏の言葉で驚いたのが、監督時代は選手の売却益をチームにもたらすことを「タスクの一つでした」と言い切ったことだ。Jリーグでは、各監督は選手を育てることは強く意識する。しかし、売却で利益をもたらすことまでが自分の仕事、と言い切る監督を、今まで聞いたことはなかった。
25年に川崎からトットナムに移籍したDF高井幸大の移籍金が約10億円に到達するなど評価は高まりつつある。ただ、世界を見れば、Jリーグでトップの売上額を誇る浦和の102億円(24年度)と同等か、それ以上の金額を、選手一人の移籍が稼ぎ出す例もある。
競争、取引の相手は国内だけではない。世界中のクラブと選手獲得で争う。Jクラブが経済的な面で競争力を高めていくためには、移籍金収入を増やすことは必須。ロジャー氏が語るように経営陣だけでなく、監督、そしてファンもその必要性を理解していく必要がある。(サッカー担当・金川 誉)

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