ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート女子で、初出場の17歳、中井亜美(TOKIOインカラミ)が銅メダルを獲得した。中井が所属する「MFアカデミー」は、創設から5年の新しいクラブ。

スケートリンクを管理する会社が運営する珍しいクラブだ。

 中井は2021年、千葉の三井不動産アイスパーク船橋で開校した「MFアカデミー」の1期生として参加。同アカデミーは、2004年全日本選手権2位の実績を持つ中庭健介コーチをヘッドコーチ(HC)に据え、アカデミー生を募集しスタートした。

 同アカデミーを運営するのは、スケートリンクの企画や管理運営を行う「パティネレジャー」。兵庫・神戸市の「シスメックス 神戸アイスキャンパス」や京都・宇治市の「木下アカデミー京都アイスアリーナ」などを管理している。スケートリンクを扱う企業が、フィギュアスケートクラブを運営する。その理由を、担当の荻原崇次さんは「スケート人気を保つために、強い選手を育成したいと思った」と語る。

 近年、荻原さんが感じるのはスケート人気の衰退。2006年トリノ五輪、女子シングルで荒川静香が史上初の金メダルを獲得以降、観戦競技としては高い人気を誇っているフィギュアスケートだが、スケートリンクの一般利用者は減少傾向にあるという。同社として、リンクの運営や管理だけでは先行きが不透明。そこで、これまで力を入れていなかった選手育成に舵を取り「強い選手を作る、大人を含めたスケート愛好家を増やしたい」と、アカデミー運営に乗り出した。

 指導体制の構築においては、ヘッドコーチ制を採用。

欧米やロシアなど、強豪国のスタッフ体制を参考にした。指導陣を一つのチームとし、氷上のコーチが5人、表現と陸上トレーニングを指導するスタッフが1人ずつの合計7人。スケートリンクを2面擁するという最大限の利点も生かし、練習環境を整えた。

 中庭健介コーチ(44)の抜てきにあたっては「なるべく長い目で、若くて情熱のある」コーチを調査。当時、福岡で指導していた中庭コーチに関する声を耳にし、荻原さんらで同コーチのもとに出向いた。強い選手を作る上で、当初荻原さんは「厳しく、練習量もたくさんというイメージだった」。ただ中庭コーチからは「もう、そういう時代じゃないと思います」と、指摘されたという。

 MFアカデミーの指導方針にはこうある。「スポーツインテグリティを遵守した穏やかなスポーツ指導を基本とし、『主体性』『想像力』『ベスト主義』を3つの柱とします」。中庭コーチは荻原さんに「厳しくやるよりも、選手に自主性を持たせる」という自身のスタイルを伝えた。「(中庭)先生のやりたいように、やってもらおうと思いまして。それで、お願いしました」。

生徒を募集し、約40人が集まったアカデミーでスタートした。

 朝練習は、日曜日の週に1度だけ。サブリンクを一般利用として開放できるため、メインリンクを長時間選手のために確保できる。現在60人ほどアカデミー生がいるが、A~Fにクラス分けし、同時に練習するのは約10人。通常、一般営業されていることが多い学校が終わる夕方の時間帯でも、クラスを問わず1時間以上の氷上練習時間を確保できるという。練習量を確保するための早朝練や深夜練が必要ない。荻原さんは「うちの魅力の一つかなと思います」と話す。

 他競技と比べても、金銭的負担が大きいのがフィギュアスケート。練習リンクの貸し切り代、レッスン料、トレーニングコーチ代など、出費は多方面にわたる。荻原さんが「月謝がすごく高い」と言うように、MFアカデミーでもトップを目指す選手の月謝は14万円。ただこの中には、バレエレッスンや陸上トレーニングなど氷以外の指導料も含まれており、外部から来た選手の中には「負担が減った」という声もあるという。同アカデミーでは「習い事」から「競技」に移る中間期間として、5万5000円のミドルコースを用意。

本格的に取り組む選手たちを肌で感じることの出来るコースを設け、猶予を持たせているという。

 スケートリンクを運営する企業が自前のクラブチームを持つのは「前例はないと思います」と荻原さん。「アカデミーといいながら、日々手作りで、手探りでやっています」と言う。新潟から千葉に転籍した中井は、中庭コーチに師事し、開花。「何の根拠もなく、先生たちと『10年でオリンピック選手を』という目標を掲げていましたが、とても早かったです」と中井、そしてクラブとしての成長に驚きもある。

 MFアカデミーには1月の四大陸選手権を制した青木祐奈や、男子で世界ジュニア王者の中田璃士らトップ選手が在籍。荻原氏はその成長に大きな期待を寄せつつ「ここでゼロから育った選手が、世界の舞台に行くような育成が目標」と、生え抜き選手が日の丸を背負うことを夢見る。実績十分の先輩たちがいる環境としては、不足なし。千葉からフィギュアスケート人材の育成、そしてスケート人気の発展に寄与していく。(大谷 翔太)

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