大相撲の大関・安青錦(21)=安治川=と柔道男子60キロ級で1996年アトランタ大会から五輪を3連覇した野村忠宏氏(51)の初対談が実現した。安青錦は春場所(8日初日・エディオンアリーナ大阪)で横綱昇進と3場所連続優勝に挑む。

対談の最後はレジェンドからエールが送られた。(取材・構成=林 直史、大西 健太)

 野「勝負に勝つためには必要なことがいろいろあるけど、自分の一番の強さはどこにあると思いますか」

 安「我慢できることですかね。めっちゃ突っ張られても顔を上げずに、下からずっと。顔を張られると返したくなるけど、返すと脇が空いてしまう。それを受け入れて、勝って返すという感じでやっています」

 野「そのメンタリティーが21歳で…。私は同じ21歳の頃はそこがウィークポイントだった。相手が組まないとか、昔は足を取りにくるばかりの選手もいて、そのたびにイラッときてしまって、勝負に負けることもあった。最初の五輪の時は、自分のメンタルの不安定を絶対に出さないと心に誓って試合に出ましたね。相手が強いほど、メンタルの変化も感じ取られてしまう。そこは若さもあって、弱いところがあった。それを今、実践できているのがすごいですよ」

 オンとオフの切り替えや趣味に対する考え方にも話題が及んだ。

 野「性格的に趣味を見つけたらそっちに力を入れてしまいそうで。

リラックスする時間にならないので、趣味は持たないようにしていました。稽古が休みの日は特に何も決めずにゆっくり過ごしたり、買い物に行ったり、友達と遊ぶとか、それぐらいでしたね」

 安「野村さんに近い考えで、趣味と言っても結局はうまくなりたいと思ってしまうので。そのためには時間をかけてやらないと、うまくならない。趣味に時間をかけるなら、もう少し四股を踏んだ方がいいんじゃないかなと。自分は相撲が好きなので、昔の動画を見るのが気分転換です。場所が終わると1週間休みがあって、その時はまわしはつけたくないなと思いますけど、動画は普通に見たりします」

 野「年齢で測るものではないけど、21歳でしっかりやるべきことを理解していて、人間性もすごく素晴らしいと改めて感じました。春場所が終わった翌日は誕生日ですよね。優勝して横綱に上がって22歳を迎えたら、幸せな誕生日になる」

 安「昨年は新入幕で千秋楽に勝ったら敢闘賞だったけど、今年はもっといいプレゼントをできるチャンスがあるので。今までやってきたことを土俵の上でしっかり出し切りたいです」

 野「優勝で綱取りになったら最高ですけど、本来の自分の良さを全部出し切る。それだけに意識を向けて頑張ってほしいですね。(自宅のある)奈良から大阪は近いので。ぜひ見に行きたいと思います」

 ◆安青錦 新大(あおにしき・あらた) 本名ヤブグシシン・ダニーロ。

2004年3月23日、ウクライナ・ビンニツャ生まれ。21歳。7歳で相撲を始める。23年秋場所で初土俵。25年春場所で新入幕。新大関の26年初場所で2場所連続優勝。三賞6度。しこ名は師匠から安と錦をもらい、ウクライナの国旗と目の色から青をつけたのが由来。182センチ、141キロ。得意は右四つ、寄り。

 ◆野村 忠宏(のむら・ただひろ) 1974年12月10日、奈良・北葛城郡広陵町生まれ。51歳。

5歳で柔道を始め、天理大、奈良教大大学院、弘前大大学院を経てミキハウス入り。男子60キロ級で96年アトランタ、00年シドニー、04年アテネと五輪3連覇。97年世界選手権優勝。15年8月に現役を引退し、ミキハウススポーツクラブGMなどを務める。得意技は背負い投げ。164センチ。

 ◆取材後記

 今回の対談は安青錦の一言がきっかけだった。昨年の夏巡業。柔道の動画を良く見るという話題から、野村さんと写真を撮った思い出と「話はできなかったので、いつかできたら」という言葉を聞いた。その後に対談を提案すると、「五輪を3連覇した方と話せる機会はなかなかない。できたらうれしい」と声が弾んだ。以前に柔道担当をしていた縁もあり、願いをかなえたいと野村さんに打診すると、快く応じてくれた。

 約1時間の対談を通じ、野村さんの言葉に真剣なまなざしで聞き入る姿が印象的だった。考え方に共通点が多かったが、安青錦の芯の強さも感じた。例えば野村さんが得意の背負い投げだけでは連覇は難しいと考え、技の幅を広げたとの経験談。それに対し、五輪と本場所の間隔の違いや自身の現状を踏まえ「今までやってきたことで勝ってきているので。無理にもっと技を出さないとダメとか考えすぎず、それで難しいとなったらいろいろ取り入れたい」と冷静に語っていた。

 一方で野村さんが持参してくれた3個の金メダルに目を輝かせ、写真やサインをお願いする姿は少年のようだった。「楽しかった。自分でプラスになる話を考えて取り入れたい」。笑顔の大関へ、色紙に春場所の抱負を求めると「上」と記した。「上は1つしかないですから」。それは尊敬するレジェンドの前で立てた誓いでもあった。(大相撲担当キャップ・林 直史)=おわり=

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